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そこにいるのは小さな頃のイチコちゃんとは違う、大人の女性。背中まであるサラサラのストレートヘアに、うっすらとお化粧もしている。
だけどこの人からは、他の人からしていた嫌な匂いがしない。
間違う事ない、イチコちゃんの匂いがするんだ。
「やっぱりイチコちゃんだぁーーーーっ!」
会えた嬉しさで思わず座席から立ち上がって駆け寄るけど、イチコちゃんは驚いてちょうど駅に着いた電車を降りるなり離れていってしまった。
え? イチコちゃん? なんで逃げるの?
あ、そっか! 追いかけっこだね。よし、絶対に捕まえるんだから!
人波の中、イチコちゃんは改札と反対方向へと向かっていく。
小柄なイチコちゃんの姿は時々見えなくなっちゃうんだけど、この距離なら僕の鼻はちゃんとイチコちゃんの匂いをキャッチしている。
そうしてちゃんとたどっていけば、ホームの端にイチコちゃんの姿を見つけた。
「イチコちゃん‼︎」
嬉しさで思いっきり抱きしめたら「きゃあっ!」という悲鳴に近い声があがった。
犬の時にはイチコちゃんが僕を抱きしめてくれていたのに、今は僕がこうして抱きしめられちゃうんだなぁ。イチコちゃん、かわいいなぁ。
「やっと会えたぁー! ずっと探してたんだよーっ」
物心ついた時からずっと。小さな頃は夢かとも思っていたイチコちゃんの感触も匂いも。何年経っても忘れることが出来なかった。
ずっとずっと探していたこの感触と、この匂い。
嬉しくって抱きしめる腕にも力が入る。
すると、イチコちゃんの身体がガクッと崩れ落ちていった。
「え? あ、イ、イチコ、ちゃん? えーー!? イチコちゃぁーーーんっ!」
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