20人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
僕の顔を見て驚いて体を起こそうとしたから、すぐに身体を押さえた。
「ダメ! 急に起き上がったら危ないよ。もうちょっと寝てて!」
その勢いにビックリしたのか、目を真ん丸にしながらもそのまま大人しく横になってくれた。
あぁ、イチコちゃんだ。イチコちゃんが僕の事を見てくれている。
嬉しいのと、安心したのと、いろんな感情が入り混じって、思わず涙がぽろぽろぽろぽろと零れていく。
「え? なんで泣いてるの⁉︎」
「だ、だって、イチコちゃん、急に倒れるから。僕、ビックリして」
止まらない涙をなんとかしたくて、腕でゴシゴシと拭うけど、ちっとも止まらない。今まで泣いたことなんて全然なかったのに。
止まれ、止まれ、涙!
そんな僕の髪の毛を、そっと優しく撫でる手に気がついた。
あぁ……変わらない。この優しい手。
「ふふっ。柔らかい」
遠慮がちに触れていた手は、少しずつ手のひら全体で髪の毛を梳くように、何度も触れてくれる。
「イチコちゃんの手、気持ちいい」
姿かたちが変わっても。やっぱりこの手で触れられるのは、幸せだ。
「それ。さっきから気になっていたの。なんで私の名前を知っているの?……あなた、誰?」
今の名前を言えばいいんだろうか?
でもイチコちゃん、さっき、目を覚ます前に名前を呼んでくれたんだ。
イチコちゃんの中に、きっとまだボクも生きている。
神様の言葉が頭の中に響く。
──姿かたちが変わって、それでも彼女がキミに気づくことが出来るかな?
神様、イチコちゃんはきっと気づいてくれたんだ。
そう祈るように、僕はイチコちゃんに声をかける。
「さっき。イチコちゃん、呼んでくれたよ」
夢を見ていたのかもしれない。
だけど、その夢が僕と結びついてくれたなら……どうか、気づいて!
「こた……ろう?」
信じられないように。だけど、そう呼びかけたイチコちゃんの瞳に、今の姿じゃないボクが映っている気がした。
……あぁ、神様。奇跡って起きるんだね。
イチコちゃんの呼びかけに、僕は笑って答えた。
「そう。『こたろう』だよ。イチコちゃん。イチコちゃんに会いたくて、ずっと探してた」
最初のコメントを投稿しよう!