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引っ越し荷物も、だいぶ片付いた。
リビングで、潰した段ボールを紐で束ねる。
明日から、空いた時間に、執務室に出向いて、今後のことを打ち合わせしていくことになっている。鏑木さんと二人で過ごす時間が多くなる。
…どうしよう。お客様とカウンセリングで二人になることはあったが、あれは仕事だったから…。いや、今回も、仕事に相違ないのだが、ドキドキのレベルが違う。どんな顔をしてればいいのか、見当もつかない。…うーん、どうしよう。
「お前、何、ニヤけてんの?」
上から不意に声が降ってきた。
見上げると、スーツ姿の海門が立っていた。…全く気付かなかった。
「…ニヤけてなんか、ないわよ!」
思いっきり、睨みつけてやる。
海門は、上着を脱いで、ネクタイを緩めながら、
「ふーん…。ま、どうでもいいけど、冬星はやめとけよ」
と、言った。まるで、こっちの頭の中を読んでいるようだ。
…コイツ、超能力者か?。
驚きながらも、反発してみる。
「何でよ。アンタが決めることじゃないでしょ」
すると、小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、シャツのボタンを外しながら、
「やっぱりな。ホント、お前、分かりやすいな。…アイツ、バツ1。元嫁は、アメリカ人で金髪のゴージャスな美人。お前とは、全くタイプが違う。かすりもしない」
と言う。
…絶句。
さらに、シャツを脱いで、ズボンに手を掛ける。
「二人は同じ職場だったから、さすがにダメージ大きくて、今回の引き抜きに乗ったんだ。次の相手なんて、考えられねえよ、まだな」
そうか…。それは、仕方ないか…って、ちょっと、待った!!
「何で、ここで脱いでんのよ!」
パンツ1枚になった、海門に怒鳴る。
「シャワー浴びるからに、決まってんだろ」
そう言いながら、脱いだシャツを掴んで、風呂場に消えた。
もう、次の展開は、予想がついてる。
私は、素早く、寝室に逃げ込んだ。
刺激が強すぎる。見ようとしなくても、目に飛び込んでくる。
固く引き締まった胸筋。余計な脂肪が削ぎ落とされて、板チョコみたいに割れた腹筋。ブロンズ像のように美しい、肩から腕のライン…って、おい!
私、しっかり見てるじゃないか!
目の毒だから、晒さないでほしい。それとも、わざとやってんのか?
鏑木さんも、色々あったんだな。
男性の30歳って、そういう年齢なんだ。結婚して、社会的にも地盤を固めて…。
海門は、結婚したいと思う相手はいなかったのだろうか。
私との結婚が決まっていたから、わざと真剣な恋愛を避けていたのだろうか。今までの彼女達だって、海門と『結婚したい!』と思っていた人は、いたはずだ。特に20代後半になると、そういう思いが強くなるのは、当たり前だ。
アイツは、どうやって、相手の結婚願望をかわしていたのだろう。
私のために…?
部屋のドアが、ノックされる。
開けると、腰にタオルを巻いただけの海門が立っていた。
またかよ!!
「洗濯乾燥機、止まってるぞ。俺が出してもいいのか?」
…それは、困ります。
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