第5話 逃した小鳥

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 海門は、コースを泳ぎ切り、プールサイドにいる連れと話をしている。ジムでトレーナーをしてる、五十畑純平(いそはたじゅんぺい)くんだ。彼が、こちらを指差す。  鏑木さんが、そっちに歩き出したので、仕方なく付いて行く。  水の中から、海門が声を掛ける。 「よう、どうしたんだ、こんなとこで」 「支配人として、休日の客足を見ておこうと思ってね。翠さんに案内してもらってるんだ」  海門が、じろっとこちらに視線を向ける。何だか値踏みされてるみたいで、居心地が悪い。 「支配人、初めまして。トレーナーの五十畑と申します。先日は、研修先に出向いていて…」  二人の挨拶の交換が始まったのをよそに、海門が私に話し掛ける。 「休日に、仕事の為にこんなとこまで来るなんて、いつになく仕事熱心じゃないか」 「いいじゃない。勤労精神に目覚めたの。ほっといて」 「ふーん。…上がるから、手を貸してくれ」  海門が右手を伸ばす。  えっ?私に言ってるのか?  仕方なく、その手を取ると、グイッと引かれた。  …何?!  次の瞬間、派手な水飛沫を上げて、プールに落ちた。  水に潜ったところを、海門に抱え上げられた。 「ははっ!のぼせた頭が、少しは冷えたんじゃないか」  いたずら成功!とばかりに、喜んでいる。 「アンタってやつは…バッカじゃないの!!」  水の中で、海門の腕に抱きしめられる形になる。  海門の肌に、私の素肌が直接触れる。ゾクンっと体の奥が脈打つ。 「海門!ふざけすぎだぞ。…翠さん、捕まって」  鏑木さんの差し出した手を掴んで、引っ張り上げてもらう。  体にタオルをかけてもらって、プールを後にした。    その後、大浴場で温まってから、帰途に着いた。 「翠さん、今日はどうもありがとう。おかげで、色々見えてきた事があります。月曜日から、どんどん話を詰めていきましょう。貴重な休日、一日中付き合ってもらって、すみませんでした」 「いいえ、支配人、こちらこそお世話になりました」  鏑木さんがクスッと笑う。 「『支配人』に戻ったね」 「あ、いえ、冬星さん…、おやすみなさい」  白のBMWが、去って行くのを見送る。  はあー…。気が張っていたのかも。ドッと疲れが押し寄せた。こんなにも長い時間、異性と二人きりって経験がないもんだから。  よろめきながら、部屋に入る。  リビングのソファーに、寝転んでいた海門が、 「お帰り」 と、言う。 「ただいま…って、海門!アンタ、何であんな所に現れて、邪魔すんのよ!」  私を見て、ニヤリと笑う。 「せっかく水着を着ているのに、見せようとしないから、お披露目の機会を作ってやったのさ。結果として、鏑木に見てもらえたじゃないか。しっかし、あの水着はないわな。中学生のスクール水着じゃんか」  余計なお世話だ!  もう、コイツと会話してると、腹ワタが煮え繰り返る。  さっさと部屋に戻ることにした。  歩き出した私の背中を、海門の声が追いかける。 「お前、意外と胸、あるんだな」 「…こ、このセクハラ男!」    言い捨てて、ドアを思いっきり閉めた。
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