第6話 そっとほくそ笑むのは…誰?

4/6

555人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
 とは言うものの、今まで実家のキッチンにろくに立ったこともなかった。でも、そんな事言ってる場合じゃない。国家資格は伊達じゃない。『管理栄養士』としての、メンツがある。栄養バランスの取れたメニューを考えなければ。4年間の、勉強と実習の積み重ねがある。さあ、実践あるのみ!  いろいろ試してみる事が、カフェのメニュー開発にも繋がる。海門は丁度良い実験台だ。試作品を食べさせて、反応を見る。  職場では、プレゼンの資料作りを、慣れている鏑木さんに任せて、夏樹と一緒に、提供するランチメニューの開発に勤しんだ。 「…以上が、カフェの運営についてのご提案です。ここで、実際のランチメニューを試食していただきたいと、思います」  プレゼンの日、特別に本社から、航介さんも来てくれた。海門と航介さんの前に、料理を並べる。 「こちらは、今回カフェの料理長を務めていただく予定の、不破夏樹さんです」  鏑木さんの紹介で、夏樹が一歩前に進み出る。  この日の出で立ちは、黒のシャツに黒のスラックス。黒の前掛けと、相変わらずの黒づくめだ。髪は、オールバックに撫で付けている。これが夏樹のいつもの調理スタイルだ。この姿で、キッチンフロアに立つ。  一礼して、海門を鋭く睨みつける。 「…何処かで、お会いしたこと、ありましたっけ?」  海門の問い掛けに、 「ええ。一度だけ。もう6、7年前ですが」 と答える。  頼むから、食べ終わるまで、思い出さないでくれ。  航介さんが、 「美味しいです。和がベースなんでしょうが、盛り付けがおしゃれですね。糖質を抑えているというのも、今のニーズに合っています。それに…」 と言い掛けた時、 「あー…!思い出した!」 と、海門が声を上げた。 「確か、俺を平手で殴ったよね。あの時…」  はい、アウト。  夏樹は、ギロっと海門を見下ろす。 「お前が、姫に酷いことをしたからだ。せっかく勇気を持って告白してるのに、『有り得ない』なんて、返事があるか!」  そう、たまたま告白の現場に居合わせた夏樹が、激昂して海門をぶん殴った。私は止めるのに必死で、失恋の痛みどころじゃなかった。 「ハーン。今回も姫の窮地に騎士(ナイト)のお出ましか」  二人の睨み合いが続く。  場の雰囲気を察して、航介さんがまとめに入る。 「いいんじゃないかな。このまま進めてもらって。専任のスタッフを付けて、企画を進めてもらいましょう。で、試食会っていつ頃を考えているの?」  鏑木さんも、さっさと話を進める。 「GWに実施しようと思います。人出も多いし、評判になりやすいので」 「じゃあ、そういうことで。いいな、海門?」 「…ああ」  睨みつつ、顰めっ面で返事をする。  まったく…二人とも、大人気ない。  食器を片付けながら、夏樹が呟く。 「相変わらずイヤな男だ。あの横柄な態度と目つきが、気に食わない…。料理に下剤仕込んでやればよかった」  やりかねない。 「…それは…、やめてね。お願いだから」  また、寝込まれたら、私に負担が掛かる。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

555人が本棚に入れています
本棚に追加