第1話 邪智暴虐なアイツ

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 振られたからといって、すぐに諦めがつく訳じゃない。結婚式の時、海門が着ていた制服は、県内のトップクラスの進学校の物だった。 (何としても、同じ高校に行きたい!)  既に中3の夏を迎えようとしていた時期であったが、死に物狂いで勉強した。周囲に危ぶまれながらも、何とか合格し、家族一同、咽び泣いた。もし、下心がやる気の源だと知ったら、父母はあそこまで喜ばなかったろう。  喜びのご入学を迎えて、すぐに喜んでいる場合じゃない事を知った。  ある程度は覚悟していたが、海門は想像以上のモテ男だった。サッカー部に籍を置く、文武両道。目を引く端正なルックス。先生を始めとする高校中の人々に対する、完璧な外面の良さ。  その時付き合っていた彼女は、モデルのように可愛らしい女子だった。無論、数ヶ月前に振られた時とは別の相手である。  この時、私は絶望していなかった。むしろ、ガッツポーズしていた。 (こんなにも、サイクルが速く回るなら、ワンチャン有りかも!)  以来、別れたタイミングを見計らっては、告白するルーティーンがスタートした。  大学は、海門の偏差値が高すぎて、追いかけて行くことは無理だった。それでも、私は同じく都内の家政大学に進み、ほとんど女の園で4年間を過ごした。その間にも、ルーティーンは続いた。美也子ちゃんから、もたらされる情報をありがたく頂戴していたので、彼女の切れ目がある程度把握できた。 『有り得ない』『そこまで不自由してない』『冗談だろ』『諦めろ』  いろんなバリエーションがあったけど、全てNOだった。  私以外もこんなにぞんざいに扱っているのか?  そんな疑問が湧いてきた。  しかし、そうではなかった。  一度、海門が告られている場面に、遭遇したことがあった。 「ごめんね。他に好きな女の子がいるんだ。君の気持ちに応えてあげられなくて、申し訳ない…。きっと、君みたいな素敵な女の子には、すぐに運命の相手が見つかるよ」  それこそ、少女漫画で学習したのかーい!ってほど、甘ったるしい言葉で、慰めていたっけ。私だけ、省エネだった。  彼女の切れ目を、虎視眈々と狙っているのは、私だけじゃない。バーっと群がってくる女たちの中で、一番美味しそうなのに喰いつくのが、いつものパターンだ。  振られ続けていても、親戚なので、冠婚葬祭で顔を合わせる。公務員試験に2連敗して、5年前、この仕事に就いてからは、今まで以上に、近くで過ごすことになった。  出会いから、15年だ。いつの間にか、敬語も外れた。職場以外では、お互いタメ口である。  海門の態度は、初めて会った時から、一貫して変わらない。私に対しては、外面の良さを発動させず、常に仏頂面だ。ニヤッと皮肉に笑う時は、揶揄う時か、馬鹿にする時と決まっていた。
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