第2話 私は激怒した!

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第2話 私は激怒した!

「…GM…いえ、航介さん!何の冗談ですか?…ねえ?」  ヘラっと笑いながら、周囲を見回す。…みんな、真顔だ。『なーんてね!』とは、誰も言ってくれないままに、沈黙が過ぎる。  そうだ!と思って、海門を見る。海門は、私の方を見ていない。私の視線に気付いているだろうに、顔色一つ変えずに、正面を見てる。  …冗談じゃないんだ。そう思うと、いろんな思惑が頭の中で、グルグル回って、気持ちが悪くなってくる。  やっと、声を絞り出す。 「どういう事ですか?」  航介さんが、言葉を選びながら、ゆっくりと話し始める。 「海門は今年、30だ。翠ちゃんももうすぐ29歳だろう。そろそろ頃合いじゃないかと思うんだ。親父がね、此の所体調を崩してる。『ポエニクス』の社長の座を降りて、治療に専念したいと言ってる。そうなると、僕が社長職に就くしかない。ここを離れて本社に行く。来月からGMは、海門だ。今後、引き継ぎを随時行う」  口調が、お仕事調になってる。 「それは…おめでとうございます」  社長が病気じゃ、おめでたくはないかもしれないが…。 「それと、私の結婚とどういう関係があるんですか?」 「亡くなった翠ちゃんのお父さんから、くれぐれも頼むと言われていてね。ずっと翠ちゃんが、コイツのことを思ってくれていることは、親戚一同周知の事実だし、この機会に、結婚して一族の結び付きを、より固いものにしていくことが…、会社の発展というか…」  航介さんが言葉に詰まっている。全く話が見えて来ない。 「あー!まだるっこしい!」  突然、今まで黙っていた海門が声を上げた。 「お前が、俺以外のヤツと結婚すると、会社が乗っ取られるんだよ」  私の方に、向き直る。目付きが怖い程にキツくなっている。 「お前が、『ポエニクス』の筆頭株主なんだから」  全く知らなかった…。 「えーっと、つまり…」 「早い話が、政略結婚だ」  海門が、涼しい顔で言う。 「翠ちゃんにも、メリットはあると思うよ。ずっと海門のこと好きだったわけだし。結婚するんだから、もう振られる心配はないし…」  焦り過ぎて、航介さんの言動がおかしくなってる。  ダメだ。思考が追いつかん。一旦保留にして、持ち帰ろう。 「ウチでよく考えてきます。ごめんなさい、帰ります」  ケーキに未練があったが、それどころじゃなくなった。  マンションのエントランスを出ようとしたら、後ろから追いかけて来た海門に捕まった。 「おい!結婚してやるって言ってんのに、何が不満なんだ?」  私の頭に、疑問が浮かぶ。 「海門、アンタ、いつから知ってたの?」  フンっと不敵な笑みを浮かべる。 「だいぶ前から。10年前、うちの両親が離婚したろ?その頃、父親同士で約束が出来上がったらしい」  そうだった。確か、円満離婚だったと聞いている。 「離婚の時に財産分与で、こっちの持ち株の半分がなくなった。会社が安泰でいるためには、お前が俺と結婚する必要があるんだよ」 「何で、知ってて、ずっと私を拒んでたの?」  海門は冷たく笑って、とんでもないことを言った。 「だって、結婚するんだから、お前と付き合う必要ないじゃん。ゆくゆくはどうせ俺のモノになるんだから。ほっといても、お前は俺しか眼中にないしな。結婚まで、たっぷり遊んどこうと思ってさ。でも、それも期限切れだな。残念だけど」  このやろう…ふざけんな! 「海門…。アンタのこと、15年も片想いしてたけど、もう今日で、終わり」  だから、何だ?と言う顔をしている。  沸々と怒りが湧いてくる。脳味噌が沸ってきて、爆発しそうだ。 「たった今、この瞬間から、アンタの事、この世で一番嫌いになった!」
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