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「俺、この後警察に行くよ。その彫刻刀を持って」
タケダはどこか肩の荷が下りた様子でそう言った。
「うん。……僕も一緒にいこうか?」
「大丈夫。一人で行ける」
「……そうか」
そこから言葉を紡げずに、助けを乞うように上を見上げれば、枯れ葉が風に吹かれて宙をひらひらと舞っていた。
(春にはあんなに、綺麗に桜の花を咲かせていたのに……)
音もなく地面に落ちる枯れ葉を見つめて数秒、ぽつり、言葉がこぼれ落ちた
「今度、一緒に桜を見よう」
タケダが顔を上げる。
急に何を言い出すんだと、きっとそんな顔をしているんだろう。
でもそれは、僕なりの別れの言葉だった。
ちゃんと罰を受けて戻ってきたら、一緒に桜を見よう。
お花見を楽しんでいる他の人たちみたいに、心からそれを楽しめるかは分からないけれど、並んで立って、一緒に同じ景色を見よう。
「……見れるかな」
「見るんだよ」
「……いつになる、ことやらな」
今は芽吹く気配のない、この吹きさらしの木々だって、時が経てば思い出したように芽吹きはじめ、華やかに色づいていくのだ。
その流れは繰り返され、決して滞ることはない。
だからきっと、僕らだって――。
「いいよ。――タケダと見られるなら、いつになっても。僕はずっと待っているから。……何度季節が巡っても」
(終わり)
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