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プツン。
人は何かを諦めるとき、糸が切れる音がするらしい。その音と共に、私の体は思うように動かなくなった。
「大事にしているものはね、消えるときは一瞬なんだよ」
私の大好きな先輩が会社を辞める前に言った言葉。あの時はピンとこなかったけど、今の私にはよくわかる。
大事なもの。最初は小さくても、日が経つにつれそれはどんどん大きくなっていく。大きくなればなるほど形を保つのは大変で、少しの衝撃で簡単に破裂してしまう。まるで、いくら大きくて色鮮やかでも、針で突かれたとたん
割れてしまう風船のようだ。
いつからだろう、寝る前の時間が憂鬱になったのは。いつからだろう、アラームの音が恐怖の音に変わったのは。
前よりも家を出る時間が遅くなった。作業着に着替える前と着替えた後に深呼吸をするようになった。タイムカードを押すのがギリギリになった。
二年前の私が今の私を見たら、この光景になんと思うだろう。
体験すること全てが新鮮で、何か一つを覚えるたびに飛び跳ねるように喜んでいた頃。自分で言うのもおかしな話だが、眩しいくらいにキラキラしていたと思う。
叶うことなら、二年前に戻りたい。もう一度、自分の世界に明かりを灯したい。
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