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後編(攻め視点)
いつでも遊びにおいで、と隣に住む橘遥君に言ってから、彼はしょっちゅう俺の家に来た。
一緒に飯食って拘束して。なんだかよく分からない関係が続いている。
「なあ、どうしたらいいと思う?」
昼飯を食いながら同期の松原に聞く。
「何が?」
突然の問いかけに松原は首を傾ける。俺だって首を傾けたい。松原に遥君との関係を話した。
「そんなんヤっちゃえばいいじゃん!」
当然のように言う松原に頭を抱える。
「俺の話を聞いてたか? 俺は恋人でもない子とヤらないの」
「でも、長瀬は遥君が好きなんだろ?」
「好き……なんだと思うけど、遥君は違うだろ。性癖引かれなくてそれを満たしてくれる人って認識だろ。俺はすっげー楽しいんだよ。遥君と飯食って拘束しながらだけど会話すんの」
「お前はもっとグイグイ行けばいいと思う。何のためにイケメンやってんだよ。遊びでイケメンやってんなら俺と顔変えろよ」
理不尽なキレ方をされる。
「俺はさ、デートがしたいんだよ。でも誘ったら遥君は断らないと思う。正確には断れないかな?」
「相手が断れないならそこを突いて攻めればいいだろ」
「だから、嫌な思いさせたくないんだって! 俺1人ではしゃいでたら、どっちも辛いだろ」
「うん、はしゃいでる長瀬を一回りも下の子が愛想笑い浮かべて付き合ってあげてるの想像したら涙出てきた」
「やめろ! 可哀想な俺を想像するな」
とうとう机に突っ伏した。弁当はまだ半分ほど残っているが食べる気にならない。松原に差し出すと喜んで完食してくれた。
「あとさ、少し心配な事があって。俺、そのうち飽きられるんじゃないかって。緊縛師とかに習いに行った方がいいか?」
俺に拘束するレパートリーなんてない。だからといって素人がネットを見ながら縛って、事故を起こしてからじゃシャレにならない。何でネットに縛り方載ってるんだよ。危ないだろ。俺なんて枕で縛る練習しちゃったよ。松原に言えば絶対揶揄われるから黙っておくけど。
「俺の知り合いに緊縛師いるけど会ってみる?」
松原がスマホを向ける。緊縛教室のホームページだった。
「どこで知り合うんだよ、緊縛師に」
「ハプバー。教室予約するか? それだと練習台になってくれるバイトの子がいるから、その子を順番に縛っていくって感じだけど」
「え? 俺、遥君以外縛りたくないんだけど」
「じゃあ個人的に呼ぶか? ものすっごい美少年なんだろ? 喜んで来ると思うぜ。写真ねーの?」
「付き合ってないんだから、写真なんかあるわけないだろ」
俺が欲しいよ。遥君の写真があれば、仕事が忙しくっても乗り越えられる。
「そりゃそうか。で? どうする?」
「お願いしたい」
「めっちゃ美少年って言うけどいいか? それで普通の子来たらヤル気なくなると思うけど」
「それは問題ない。めちゃくちゃ可愛いから」
「分かった、連絡しとく。休憩終わる前に一服してくるわ」
ひらひらと手を振りながら喫煙所に向かう松原を見送った。
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