わしは何もしない

事故物件

　殺風景な無垢の部屋。生活感は微塵(みじん)も感じられない。
　そりゃそうじゃろう。何せ、ここには誰も住んでおらんのじゃから。
　今は小奇麗なこの部屋じゃが、ついこの前までチョウバエがうじゃうじゃおった。
　誰も水を使っていなかったから、S字トラップの水が蒸発して、そこから侵入してきたのじゃろう。
　この部屋を見に来た女子(おなご)が、ドン引きしておったのう。まあ、あれじゃあ無理もなかろうて。
　じゃが、清掃しておくという旨を不動産業者が伝えると、あの女子はOKしたのじゃ。
　というわけで、この部屋は業者が清掃して、ぴかぴかになったのじゃ。
　それにしても、あの女子、めんこいだけではなく、心も広い。
　そんな娘がここに引っ越してくる。
　実に楽しみじゃわい。