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その代わり、税金だけ持っていかれてますが。納めるだけ納めて、なんの恩恵も受けてませんが。
……あくまで個人比、心で反発。社会に向かって吠える気はない。
私の渾身の厭味が、グチ話だけして帰りたかったらしい夏鈴の怒りの導火線に火をつけたらしい。
長居は無用とばかりに、勢いよく玄関扉を開け、私の顔に指を突きつける。
「もう、いいよっ。
くれぐれも、犯罪被害者にも加害者にもならないでよねっ」
「はーい」
ひらひらと手を振って、うるさい妹を玄関先で見送る。
ふと目を上げれば、藍色の夜空にやけに大きな満月が出ていた。
こわいくらい、デカいな。
そんな感想と共に玄関扉のノブに手をかけた直後、カンカンと安アパートの階段を昇る音がして、作業着姿の隣人が帰ってきた。
あ、そうだ。
「コンバンわ〜」
「今晩は。ちょっと待って」
きょとんと茶色い瞳を丸くしたお隣さんを尻目に、妹から大量に押しつけられたミカンを適当に袋に詰め、渡す。
「おすそ分けです。どうぞ」
「おソバ? オーケィ?」
うわ、すごい変換ミスみたいな返し。
「えっとね、コンポタのお礼……このあいだの、缶の」
ジェスチャーで飲む真似して伝えれば、ようやく大きくうなずかれた。
「オゥ、ありガトウ、ゴザぁマス!」
「いえいえ、ではこれで」
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