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貸し借りなし。あー、スッキリ。
我ながら嫌な考え方だけど、物をもらってそのまま何も返さないのは寝覚めが悪かったりするので、自己満足とはいえ気が楽になった。
……なのに。
閉めかけた扉にスッと差し込まれた、黄褐色のゴツい手指。
一瞬にして夏鈴の忠告が思いだされヒヤリとした、直後。
「コレ、たっくさんもらマシタ! なので、あげマース。ドゾ!」
……あー、なんか、また返ってきた。どうするよ、これ……。
❖
手にした可愛らしいラッピングの袋をテーブルの上に置く。
卓上カレンダーを見やれば、平日の二月十四日。世間一般ではバレンタインデーというものだ。
……あの異人さん、日本のバレンタインの意味を理解してるんだろーか?
とりあえず、慎重にギフトバッグのリボンをほどけば、特にメッセージカードのようなものはない。
袋の中のチョコレートも、一般に流通されてる某有名お菓子メーカーの飴玉大のチョコだ。
うん。たぶん、職場の人からもらった義理チョコだろう。
本人がそれを解った上でくれたものかは定かではないけど、本命でないなら問題ないか。
バスルームに向かいながらチョコの包みを開いて口に入れる。
キャラメル風味の濃厚なチョコの味わいが口の中に広がった。
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