異種接近遭遇 Part.1『名前』

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フツーに、美味い。やっぱり、食べ物に罪はない。 バスタブにお湯をためてると、浴室の薄い壁向こうから蛇口をひねる音と、よく解らない鼻歌が聞こえてくる。 不思議なことに、向こう側の生活音を聞く度に、同じ人間なんだよなぁと当たり前の感想をもってしまう。 言語とか習慣とか文化が違っても。話したら、そんなに人間(ひと)として違わないのかも。 ふと、そんなことを思った。       ❖ 遅番上がりでアパートに着けば、通路の手すりに寄りかかり紫煙を(くゆ)らせるお隣さんがいた。 ……あれ、そういえば名前知らなかった。まぁ、呼ぶこともないし、どうでもいっか。 「アッ」 私の姿を見て、気まずそうに携帯用の灰皿に煙草を押しつける。 「今晩は」 別に吸うのやめなくても、私すぐに家に入るから遠慮しなくていいのにな。 「コンバンわ。……けむり、ゴメんナサイ」 「気にしないでください。ウチの母も生きてた時、外で吸ってたし」 退去時を考えてか、このアパートの住人らしき喫煙者が外で吸ってるのは、何度も見かけたことがある。 「お母サン、いないデスか。……サビシィ?」 「いえ、もう何年も経つし」 黒髪の向こうの茶色い眼が、見透かすようにこちらを見る。 ───ストレートな穿鑿(せんさく)。日本人なら聞かないよ、それ。
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