憂鬱なお花見

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 松本電機は私の職場だ。なぜそれを知っている!? 思ったことが全部顔に出たかのように、怪訝そうな顔をしてしまった。 「その制服は松本さんでしょ? うちの職場、松本さんの隣」  隣ということは……。 「米山鉄工所?」 「そう」  そうなんだ……、とは思っても、特に会話も続かず、少し気まずさを残しながら、愛想笑いでその場を凌いだ。  持ってきたブルーシートを広げながら、なんで私が……と不満顔になる。須貝さんが『場所取りは新入社員の役目なのよ』と、申し訳なさそうに言ってたのを思い出す。過去にブルーシートを敷いて会社に戻ったら剥がされていたことがあったらしく、見張りでいなくちゃいけないとかで。はぁ、めんどくさいなぁ。 「手伝いましょうか?」 「いえ、お構いなく」  ブルーシートを敷くくらい、私にもできる。桜は遠慮なく枝を揺さぶって、残った花びらを振り落としている。 「こんなに風が吹いたら、桜散っちゃいますね」  ブルーシートの上でくつろぎながら、舞う花びらを見つめるその人は、何かと私に話しかけてくる。会話は一方通行で、私が相槌をすると終わってしまう。続かない会話は余計に気を遣ってしまう。
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