憂鬱なお花見

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 敷き終わったシートの上にも、花びらが一面に模様をつけた。さて、定時まであと約四時間、私は場所取りという名の暇つぶしをしなければいけない。  何度目か分からないため息をついて、スマホを取り出した。そこへ思いがけず突風が吹いた。 「わーー!」  私が座っていたシートはめくれるくらいで済んだけど、もう一枚は風に舞い上がり飛ばされてしまった。  立ち上がって取りに行こうとすると、また足元でシートが暴れるので私は動けない。どうしよう。 「任せて」  振り向いた時にはもう隣に姿はなく、花びらが降り注ぐ中をお兄さんは駆けていった。  私はめくれる角に靴を置いて、走る背中を目で追った。遠くで「よっしゃ!」と声が響いた。 「松本さーん! 捕まえたよ!」  右手にブルーシートを持ち、左手は大きく振りながらこっちに向かってくる。 「ありがとうございました」 「松本さんが離れたら、今度はそっちが飛んでっちゃうでしょ」  全然気にしてないよと、もう一度ブルーシートを敷くのを手伝ってくれた。 「これ、重石(おもし)にして」  ダンボールをバリッと開けると、烏龍茶のペットボトルをブルーシートの角に置いてくれた。 「これで松本さんも安心だね」  松本さん……確かに松本さん、なんだけど……。
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