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「あの、私、栗林です」
「あ、名前ね! そうだよね、松本は会社の名前だよね」
お兄さんは胸ポケットから名刺入れを取り出すと、両手で名刺を渡してくれた。
「あ、すみません。私まだ名刺なくて」
受け取り方もこれで合ってるのか分からない。とりあえず両手で受け取った。
「奥村樹生です」
「栗林一華です」
ブルーのラインが爽やかな印象の名刺だ。名刺……かっこいい! 大人って感じ!
「去年までは須貝さんが場所取りしてたんだよ」
「え、須貝さん知ってるんですか?」
共通の知り合いがいると、少し警戒も緩くなる。奥村さんは何の遠慮もなく、うちのシート近くにどかっと腰を落とし、あぐらをかいた。
「うちの職場はオレが一番下っぱ。小さい会社だから、新入社員取らなくてね」
「私は三年振りの新入社員って言われました」
「オレ、五年連続で場所取りしてるから、手際いいし、場所取りのプロだよ」
場所取りにプロも何も……と思ったけど、ブルーシートの角はしっかり重石がしてあるし、小さめの座布団やクーラーボックスなど準備も良い。
ドヤ顔の奥村さんがおかしくて、ちょっと笑ってしまった。笑ったついでに、少し気を許したのかもしれない。
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