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「正直なところ、花見ってめんどくさいです。新入社員が場所取りするとか、昭和ですかって感じ。お父さんに聞いたら、ビール持って、まず社長から順番に挨拶に行けって言うし、そういうの苦手だからほんと嫌で……」
つい、愚痴ってしまった。暗く落ち込む私とは逆に、奥村さんは頷きながらも笑っている。
「ほんとに昭和だな。松本社長は気さくな方だし、社長になってまだ若い人だから、そういう古くさい慣習はなさそうだけどね」
「本当ですか? そういうの全然分からないのにお父さんからそう言われて、ただただ憂鬱なんです」
「栗林さんって、何歳? 若いよね」
「十八です。高校卒業したばかりです」
進学してまで勉強するつもりはなかった。学費がもったいないって思ってたし、早く就職したかった。自立したかった。
「特にやりたいこともなかったから、採用してくれるところならどこでも良かったんです」
今の職場にどうしても就職したかったわけじゃない。
「ま、仕事だからね。オレだって別に鉄工所で働きたいと思って入社したわけじゃないしね」
「そうなんですか?」
腕を空に向けて伸びをして、少し大人な奥村さんは口を開いた。
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