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 散り始めた桜は、もう今年のお花見が終わることを教えてくれていた。私は毎年この時期になると居なくなってしまった”彼女”のことを思い出す。  出逢ったのは入学式の桜が咲く頃。何年か一緒に居た私達は、この時期になると仲間内で集まって夜桜を見たり、一緒に新歓の準備をしたりしていた。お酒の強い彼女がアルコール度数の高いお酒を飲み干す度、私は歓声を上げる係をしていたね。  あれから何年か経っても私が飲むアルコールは度数の低いまま。今日だって3%のカクテルをトニックウォーターで割って飲むしかない。 「ただの酒のくせに。傷を抉ってきやがる」  彼女にまつわるもの全てが私を後悔させるのに、今頃の彼女は私のことなんか忘れてお酒を飲んでいるに違いない。  彼女が居なくなったのは所謂“人間関係リセット症候群”と呼ばれるやつだ。急に何の前触れもなく、彼女は全ての連絡先を絶った。 「何か嫌なことがあったんでしょうよ」  知らない。全ては推測でしかない。  だって彼女は私に何にも言わなかった。  話してくれれば力になれたのに(いや、なれなかったかもしれない)。せめて喧嘩ぐらいさせて欲しかった(そんなことはしたくないけれど)。 「結局のところ、何にもわかんないわけですよ」  気が付けばもう私は彼女の人生には要らないって、静かに、さようならを告げられていた。  生きていかなくちゃいけないから、私は彼女以外のお友達を作らないといけない。  彼女が私を捨てたように、私は彼女を捨てはしないけれど、彼女だけを待っていられる程私は孤独に強くない。 「......。」  彼女だけが間違っていて、私が人様を責められることのないぐらいの真っ白な選択ばかりをしてきたかと問われると、全くそうではない。  それでも、私にとって彼女は特別だった。  特別”だった”、もう特別枠には置いてあげられないけれど。  1.5%のアルコールは容易に私の脳を痺れさせる。お花見って、こういうものだよね?  悲しくて、寂しくて、イライラする。  グルグルと回る世界はきっと全部彼女と私のせい。  飲みきれなかったアルコールを、窓の外から勢いよく捨てた。 「ゔぁーーか。私を捨てたな? いつか必ず、直視せざるを得ない存在になって、見返してやる」  咲き誇る桜がどんなに桜を嫌いな人の目にも映るように。上を見ない人にも散った花弁が見えるように。 「私を必ず見させてやる」  何年かかってもいい。静かに視界に入り込んでやる。  私達の関係はもうそれでしか救われないのだから。 ーーおわり
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