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「うわあ」  眼の前に広がる光景にわたしは息を呑んだ。  数本の桜の木に満開の桃色の花。舞い落ちる花びらが地面を覆っていて、視界のほとんどがピンクに染まる。  毎年見ているけれど、わたしが二十歳、大学生になったからか、以前より桜のある風景の美しさが分かるようになった……気がする。  去年と同じ場所、わたしが首を吊ろうとした桜の木の根元にレジャーシートを敷いて座り、去年と同じようにコンビニの袋からおにぎりとお菓子、飲み物を取り出す。  大学の入学式だったりと不安な時に持ち歩いたりしているから、もう端々がボロボロになってきているお気に入りの手帳も隣に置いた。 「今年も、お花見しよう」  そう言ったのも束の間、毎年の通り、数分後には、 「飽きた」  と零してしまった。大人になったからと言って、突然、花見を嗜む感性が身に付くわけではないらしい。 「毎年来てるけどね、やっぱりサキがどうしてお花見が好きだったのか分からないや。わたしには合ってないのかもね。案外、実はサキも分かってなくて、背伸びして大人ぶってただけなんじゃないの?」  言いながら、わたしはくすりと笑う。  未だに時折、サキの気持ちを考えることがある。死を選ぶほど辛かったことは何だったのだろうと。依然、答えは見つからない。ちゃんと言葉にしてくれないとわたしは理解できない。いや、言葉や文字にしてくれたって、その裏、本心では違ったことを考えてるかもしれない。年々、他人が何を考えているのか分からなくなっている気がしなくもない。  でもね、わたしがサキを想っていることは本当。紛うことなき真実。あの手帳に書かれていたことは建前で、実はわたしを恨んでいたかもしれない。だけど、死人に口なし。言い返してこれないから、一方的に想っても良いよね。  風が吹く。桜の花びらがふわりと舞い上がる。  ほら、サキも良いって答えてくれた。 「ああ、そう言えば明日、友達とお花見に行くんだ。サキみたいに静かなのじゃなくて、どちらかといえば騒ぎたいだろうけど。たまにはサキもそういうお花見に来てみない? ううん。決めた。一緒に行こう」  わたしは手帳に向かって微笑みかける。  こんな所にサキが居ないのは理解している。この手帳だって、サキの遺品であって、サキそのものではない。書かれている内容だって、サキが生前書き残した言葉。ただの文字の羅列。  ただ、サキがここに居るんだってわたしが思い込みたいだけ。サキはここに居ない。誰かに言われなくたって、どこかに書かれていなくたって分かってる。  寂しくないと言えば嘘になる。もうサキの声も、匂いも、体温も思い出せなくなってしまったけれど、二人で過ごした思い出だけは忘れられそうにない。  大丈夫。わたしの人生が終わる時にはサキが迎えに来てくれるから。それは、この手帳にもちゃんと書かれてる。  だから、またね、サキ。
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