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2.
サキはわたしの幼馴染で、一番頼りになる親友だ。わたしとサキは保育園の頃に出会い、家族ぐるみの仲となり、同じ小学校に通い、同じ中学校に進学した。
とはいえ、性格は反対でいつも体を動かしたくて授業すら後半は耐え難い衝動にウズウズしてしまうわたしとは対照的に、サキは大人しく本を読んだり、スマートフォンを弄っているのが好きな子だった。
「ねえねえ、どこか出かけようよ」
「嫌だ。めんどくさい」
「えー、ずっと部屋の中に居たら、腐っちゃうよ?」
「学校には行ってるからそれで充分だよ。腐っちゃうって言うけど、紫外線はお肌の天敵っていうじゃない。カナも女の子なんだから、たまには美容に気をつけなよ」
「別にあんな猿みたいに騒がしい男子に色目使う気無いし。自分だって気をつける気なんて無いくせに。もう、いいから外出よう。楽しいことがあるかもしれないでしょ」
「嫌だって。そんなに楽しいことがあるなら、一人で行けば?」
「……それは淋しい。サキと一緒に居たい」
「なら、外に出るのは諦めて。一緒には居てあげるから」
「はぁい」
なんて取り留めのない会話を幾度となくしていたのを覚えている。わたしがブツクサと文句を言ったところで、いつもサキに言い包められてしまう。サキに言葉で勝てたことは一度もない。あれは、サキがよく本を読んでたからなのかな。分かんないや。
単純に、わたしの頭が良く無いだけかもしれない。
わたしはよく忘れ物をする。
学校の宿題から教科書、体操服。小学校の頃にはランドセルを忘れて、通学路で落ち合ったサキに「あんた、何しに学校に行くの?」って呆れながら笑われた事があった。物だけじゃない。約束だったり、待ち合わせだったりも。
どうして何度も忘れるの? と問われることはあるけど、それが分かればとっくに改善しているし、苦労はしない。むしろ、こちらからすれば、どうしてみんなが覚えていられるのかを問いたいくらいだ。
わたしには、物事を記憶する、という才能が欠如しているのだろう。たぶん。
そんなわたしにサキがプレゼントしてくれたのが、今でも肌身離さず持ち歩いているお気に入りの手帳だ。「覚えられないなら書きな。そうすれば忘れない」と渡してくれた。
中には学校の持ち物や宿題、約束。わたしが忘れそうなことが、わたしの文字で、たまにサキの文字でつらつらと書かれている。中にはわたしやサキの愚痴や落書きとかも。途中から残りページが少ないことに焦って、文字が小さくなったりもしている。
手帳に綴られた全てがわたしとサキの大切な思い出で、二人しか知り得ない秘密だ。
この手帳を使いだしてから余計にわたしとサキはべったりと過ごすことが多くなって、友達から「あんたらずっと一緒にいて疲れない? まるで恋人みたいね」と冗談めかして指摘されたことがある。サキはうへえと舌を出して「御免被る」と言いのけたけど、わたしはそれだけ仲が良く見られているのだと嬉しかった。サキもきっと照れ隠しで、本心じゃなかったと信じてる。
そんな二人だったのに、わたしは気がつけなかった。
サキの心が死を選んでしまうほどに限界だったことに。
家族にも遺書は残していなかったらしく、未だに何が原因なのかは分かっていない。心の傷の積み重ねなのか、突発的なものなのか。サキの両親が離婚寸前なくらい不仲だっていう噂もあるし、サキの志望校への判定が厳しかったという噂も。
死んでしまったサキが言い返せないからって、嘘か真か、みんな好き勝手言いたい放題。わたしと喧嘩して仲違いしたのが原因なんて噂も流れてるけど、それは間違いだって断言できる。喧嘩なんてしてないもの。
断言、したい。
でも、本当のところはサキと一番近くにいたと自負しているわたしにも分からない。
サキと一緒に居ることだけで満足していた、鈍感なわたしは気がつけなかった
ちゃんと言ってくれないと、わたしは察せない。
わたしには、見られない。
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