舞い散りくすぐる、花の季節に

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「よっしゃーい! 花見じゃーい!」 「花見だーい!」 「あのな……道具片づけてからにッ……くしゅっ」  さっきまで使っていた箒を頭上に掲げて楽しげに八尋が叫び、それに善弥が続く。  注意しようとした家の主――真咲は花粉に鼻をくすぐられていた。  真咲の家の庭には、大きな桜の木がある。  満開になるとその桜の花びらが、隣近所との間にある側溝に詰まる。  なので、それを毎年友人と一緒に片付け、その後で花見をする流れが出来ていた。  楽しそうな二人と対照的に、絶望に濡れる真咲が小さく零す。 「クソ……」 「……はい。真咲、のど飴」 「サンキュ……」  ずび、と鼻を鳴らしながら、ポケットから八尋が取り出したそれを受け取る。  軍手を適当に丸めて置くと、飴を口に放り込んだ。 「まさか今まで食ってた飴が生産終了とはなぁ」 「今年は……二人で花見して貰おうかと思ってた」 「良かったな、代替品見つかって」 「うん……のど飴は神……」 「疲れてるなぁ」 「今年あったかいから特にひどいんだってさぁ」 「まじかー……」  穏やかな会話を進めながら、善弥が二人から離れていく。 「ん? お前どこ行くんだ?」 「花見の準備! 二人は掃除の片付けしてて! 多分真咲一人じゃ進めるの大変だから」 「戦力外でスマン……」 「花粉の季節はしょーがねぇって。りょーかい、頼んだぜー!」 「うん、行ってくるー!」  ぱたぱたと、初めて掃除を皆でした頃よりは伸びても小柄な善弥が駆けて行く。  それを二人で見送って、真咲は鼻をずびずば言わせながらも片づけを始める。 「大丈夫かよ?」 「大丈夫になるまで待ったら春先は何も出来ない」 「……なるほど」  黙々と、時々息苦しそうにずびずびという音を聞きながら二人は進めていく。  ほとんど道具が片付いた頃。  ザァアアア……と一際大きな風が吹いて花びらが舞いあがった。  太陽に照らされて、キラキラと輝く花びらがひらひらと舞う。 「嘘だろ……今、掃除したのに……」 「綺麗だな、って言おうとした気持ちが今。完全に上書きされたわ」 「……手伝ってくれてありがとうな、八尋」 「申し訳なくは思ったんだな?」 「それは、まあ……桜の花自体はきれいだし。掃除しなきゃいけないのも、色々とあるのも、全部人間の事情だからな」  ずび、と鼻をまた一回ならして真咲が何気なく目をかこうとする。  その手首を勢いよく掴んで、八尋は真剣なまなざしで言った。 「悪化するぞ、やめろ真咲!」 「それでもかいいぃんだよ……!」 「お待たせー! とりあえずレジャーシートと飲み物を持って……って何してんの二人とも?」  舞い散る桜の花びらの下で、向かい合う二人。  花粉の季節真っ只中、今年も男三人の花見が始まろうとしていた。
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