ずっと終わらせない。

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「ねぇ、あのさ……」 「ん? どうしたの?」  彼氏が、切羽詰まったような顔で、私に話しかけてきた。 「昨日の夜、お前の電話に出てちょっと話したんだけどさ、どこにも履歴がないんだよ」 「……え?」 「バグかな……本当になんなんだろうね……」  眉を下げた、曇った顔でそう呟く彼氏から目を逸らす。一筋の冷や汗が、頬の輪郭をなぞるように伝った。  私、彼氏と昨日電話なんかした事ないのに……? 嘘、嘘、いつの間に……?  彼氏はそんな私を見て、冷静に言葉を紡いだ。 「あのさぁ……今日何の日?」 そう彼氏が言った瞬間、この空間の時が止まった。密やかに、喉元の奥で隠れていた違和感が頭角を表していく感じが、気持ち悪い。だけど、それと同時に冷や汗は引っ込んだ。ついでに、笑いが口から吹き出した。 「ちょっと、今日エイプリルフールじゃない! もう、びっくりした〜」 「わりぃ、わりぃ」 おどけて謝る彼氏を見て、心底ホッとする。  良かったぁ、スマホをハッキングした時の不具合とかじゃなくて。びっくりした〜、ストーカーだって事を隠して、只の一般人としてやっと近づけたのに。四苦八苦しながら、スマホハッキングして、GPSとか隠しカメラ機能仕込んだの全部パァになるところだった。あぶな〜。 「お前もこういう可愛いとこあんのな」 人好きが浮かべる笑顔を向けられ、髪に触れられる。その仕草すら、未来永劫脳に焼き付けて、一生忘れられなくしたい。口元がだらしなく緩みそうになるのを、堪えながら可愛い可愛い恋する乙女のように破顔する。  これだけ私が色々周りで何かをしようと、全く気づかないなんて貴方の方こそ愛おしいわ。  他の人に見せたら致死量になるぐらい、甘ったるい毒の塊のような思いは、形にする事はなかった。
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