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「花見に参加する人―! 参加表明の締め切りは今日中ですんで、メールの投票機能から返信してくださいね」
隣の席の同僚は水曜の朝も絶好調だった。誰もが気だるげな始業前に、ハリのある声はよく通る。相変わらずだなと見上げていると、周囲を見回す明るい目が俺を捉えた。
「五味、なんだよ。そのうらめしい顔は」
「元気でうらやましいなーって」
冗談で返されることを期待していたのだろう。百田は意外そうに目を見開くと、笑顔で俺の背中を叩いた。
「元気なくても元気な振りしろよ。そうすりゃ気持ちも引っ張られるから」
「お前からそういう話は聞きたくなかった」
「二十代じゃないんだぞ。俺だって疲れる時は疲れる。そもそもお前は体力が」
「参加者ってどのくらい集まってるの?」
いらぬ方向に話が進んだため、慌てて百田のパソコン画面を指差す。そこには律儀に取りまとめられた参加者リストが表示されている。
「花見? 平日の夜だからな。家庭持ちは少ないけど、二、三十代の単身者の参加率は高いよ」
「八束さんも参加する?」
何気ないふりをして、俺はやっと本題を切り出した。
「いいや。ないでしょ。あの人、飲み会とか基本的に来ないじゃん。お前も同期だから知ってるだろ」
「ああ。でも、八束さん桜好きみたいだから来ないかなって」
「なに? 八束さんのこと気になってるの? やめときなって。あの人、そういうノリじゃないだろ。職場では一切、他人に気を許さないタイプだよ。
ああいう人って恋愛ごとに興味ありませんって雰囲気だしておきながら、いつのまにか結婚してるもんだよ。意外ともうしてたりして。年齢的にはおかしくないだろ」
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