必然

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 タクシーが自宅近くのコンビニに到着する。運転手に礼を言い、智基にタクシー代と送ってくれたお礼を言い、コンビニへと向かった。  明日は土曜日。いつもは節約の為に自炊をしているが、休日の朝はゆっくりしたい為、コンビニでメロンパンを買う事が日課になっていた。今日はお酒も入っているせいか、いつもより色々と買い込んでしまった。  コンビニを出て十字路を右に曲がると直ぐに自宅のアパートが見えた。 「恵美!」  急に声を掛けられ、体がびくっとする。振り返ると智基が立っていた。 「え、どうして。帰ったんじゃ…。」 「恵美が降りた後、支払いして俺も降りたんだよ。家、この辺だから歩こうかなって思って。それに、この辺街灯も少ないし家まで送りたかったから。」  真っ直ぐに見つめられ、顔が紅潮していくのを感じた。  二人並んで歩き出す。 「そのメロンパン、美味しいよな。メロンパンって口の中の水分持っていかれるイメージがあって苦手だったんだけど、しっとりしてて俺も好きだよ。」  私の手に下げられたビニール袋を指差しながら、智基が話す。メロンパン以外にも飲み物やお菓子を買い込んだので、なんだか気恥ずかしくなった。  凛子には悪い気もしたが、『好きだよ』の言葉に胸が高鳴る。メロンパンの話をしているだけなのに。 「智基は今仕事何してるの?今日は手伝いだって話してたよね。」 「就職失敗しちゃってさ。引っ越しとかコンビニ、あとは郵便物の仕分けのバイトとか色々やって、今は飲食店の店長やってるよ。雇われだけどね。」 「店長?すごいじゃん。なんていうお店?」 「この間の三月に恵美たちの職場の送別会があったところだよ。」 「あのしゃぶしゃぶのお店?美味しかったって職場でも好評だったよ。」  話していると、私のアパートの前に着いてしまった。この時ばかりはコンビニの近さを恨んでしまう。 「オートロックとはいえ一階なんだから、女性の一人暮らしは気をつけてな。ちゃんと鍵、掛けるんだぞ。チェーンも忘れんなよ。家に誰も居なくても、ただいまっていうと一人暮らしに思われないってテレビで言ってたぞ。」 「なんだかお母さんみたい。じゃあ、おやすみ、ありがとう。」  智基に手を振り、十字路を左に曲がる智基の姿を見送った。
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