必然

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「ここだよ、恵美。先に乾杯しちゃってるよ。」 「遅れてごめんね。今日に限って残業なんてついてないわ、本当。」 「恵美ちゃん、お疲れ様。」  夜桜の下、ブルーシートを広げ大学時代の友人の凛子と佳那が缶ビールを片手に手招きしている。コロナウイルスの影響で、社会人五年目にして漸くお花見開催に至った日だった。  パンプスを脱ぎ、凛子から保冷バッグに入っていた缶ビールを受け取る。お花見会場としてライトアップされた夜間の屋外でも分かる位に、凛子の頬は火照っていた。その割に空の缶は見当たらない。浮かれたお花見会場の雰囲気に酔っているのかもしれない。 「社畜五年目、かんぱーい!」  凛子が乾杯の音頭を取り、三本の缶ビールがコツンと鈍い音を鳴らした。仕事終わりのビールの美味しさに気付いて早五年。喉から全身に巡る苦味と炭酸の爽快感が、疲れた体を労ってくれる。 「先に始めちゃっててごめんね。お腹が空いちゃって。」  佳那が焼き鳥の入ったパックを渡してくれる。 「桜の下で食べたり飲んだりするのって、なんでこんなに美味しいんだろうね。」 「家で飲む缶ビールとじゃ大違いよね。」 「恵美、聞いてよ。佳那ったら、彼氏出来てたらいしよ。同棲する部屋も探してるんだって。羨ましい限りだわ。」 「ちょ、凛子。私から報告したかったのに。」 「詳しく聞かせてよ。どんな人?同棲するって事は結婚も視野に入れてるってこと?」  人様の恋愛話程、酒の肴になるものはない。私の恋愛経験は、高校の時に一度彼氏が出来たが、高校卒業後に別々の大学に進学し、自然消滅してしまった。その後は大学、社会人と何事もなく、少女漫画やドラマを見て乾いた心を潤していた。
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