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神仙(しんせん)遊戯園(ゆうぎえん) 幽香(ゆうこう)花の下臥(したぶし)  東風(こち)吹かば(にお)ひおこせよ梅の花……って、菅原道真(すがわらみちざね)の和歌だったかなあ。  などと、(ほう)けたあたしは、川縁を逍遥(しょうよう)する。広くゆったりと流れる川。流れに沿って並んでいるのは、満開の花木(かぼく)。ぼんやりと見やる。 「梅の花のわけない……よね」  淡い光を発するように、広がっているその花。  夢見草(ゆめみぐさ)……。  だいぶ前、誰かがそう教えてくれた。桜の事だ。あたしは背中に背負ったギターケースを手に持ち替え、さらに歩く。  参集場所は、確かこの辺だったよね。まだ、誰もいない。  そう、今日は観桜(かんろう)(うたげ)。    お花見だ。    お仲間は、職場の方々。  若いのも、年配も、新人も古株も、今日はみんな集まる。10人位かな。  部長まではよしとして、社長はお呼びでない。あたしは中堅かな。  飲み食いの準備は、若手がすることになっている。  あたしは、余興を(おお)せつかった。野球けんのようなお座敷遊びや、カラオケなどを仕切るのは、あたしには無理だ。だいたい、人に物申すのが苦手なあたしに、余興担当をさせるとは。不適材不適所とはこのことだろ。  あたしは、仕事以外の段取りが嫌いだ。勝手にやらせてもらうことにした。  そこそこ弾けるギターで、そこそこ歌えるビートルズを歌う。  まあ、ええやろ。  それにしても、誰もまだ来てない。  あたしが、春の陽気に誘われて、早くきすぎたようだ。
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