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①
神仙遊戯園 幽香花の下臥
東風吹かば匂ひおこせよ梅の花……って、菅原道真の和歌だったかなあ。
などと、呆けたあたしは、川縁を逍遥する。広くゆったりと流れる川。流れに沿って並んでいるのは、満開の花木。ぼんやりと見やる。
「梅の花のわけない……よね」
淡い光を発するように、広がっているその花。
夢見草……。
だいぶ前、誰かがそう教えてくれた。桜の事だ。あたしは背中に背負ったギターケースを手に持ち替え、さらに歩く。
参集場所は、確かこの辺だったよね。まだ、誰もいない。
そう、今日は観桜の宴。
お花見だ。
お仲間は、職場の方々。
若いのも、年配も、新人も古株も、今日はみんな集まる。10人位かな。
部長まではよしとして、社長はお呼びでない。あたしは中堅かな。
飲み食いの準備は、若手がすることになっている。
あたしは、余興を仰せつかった。野球けんのようなお座敷遊びや、カラオケなどを仕切るのは、あたしには無理だ。だいたい、人に物申すのが苦手なあたしに、余興担当をさせるとは。不適材不適所とはこのことだろ。
あたしは、仕事以外の段取りが嫌いだ。勝手にやらせてもらうことにした。
そこそこ弾けるギターで、そこそこ歌えるビートルズを歌う。
まあ、ええやろ。
それにしても、誰もまだ来てない。
あたしが、春の陽気に誘われて、早くきすぎたようだ。
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