1人が本棚に入れています
本棚に追加
「かりかり」
黄昏が僕を包み。
全身がオレンジを帯びる。
これが夕日なら幻想的でさぞ美しかっただろうに。
バチャバチャ
水音をたてながら、オレンジジュースが僕の額、頬と流れ落ち…地面を濃くオレンジ色に染めていく。
僕をよく虐めるアイツはもう名前も顔も出てこない。
僕の脳が否定しているんだ、この目の前にいる”怪物”という存在を。
グサッグサッ
何度も妄想の中でアイツを殺した。
だけれども、現実で実現できるはずがない。僕にはその勇気を持ち合わせていないからだ。
辛い。
僕は全身をオレンジに染めて帰路につく。
服も髪もびちゃびちゃだ、川にでも飛び込んで誤魔化さないと。
かり…かり…
異音が鳴る。
小さな音だが、何故か僕はその音を聞き逃さなかった。
かりかりという爪をたてて軽く引っ掻くようなこの音は、僕が今から飛び込もうとしていた川から鳴っているようだった。
川は横5m深さ50cm程の小川だ、その川に石橋がかかっている。
いつも、この石橋から川に飛び込む。
かり…かり…
その音の非日常感に恐怖を覚えることは無く、好奇心が湧き上がっていた。
石橋に向かい、何処からこの音がしているのか確かめる。
かり…かり…
確実に近い、すぐ側だ。
僕は辺りを注意深く観察する。
だが、異音の発生源らしきモノは見当たらない。
かり…かり…
それも当然だった、石橋の真下。
不自然に石橋の中央から垂れ下がっている縄。
その縄に首を括られる形で石橋から垂れ下がっているモノ………アイツだった。
見たことのない宙を舞う謎の物体達。
歯肉の代わりに瞼、睫毛がある僕の頭2個分程の大きな口達。
ソレが青白いアイツの腕や足をしゃぶっていた。
見られた。
最初のコメントを投稿しよう!