世界で一番豪華な花見

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 超高級ホテルの中庭で開かれて花見。さまざまな種類の桜が、本来開花時期が異なる木々が、一斉に満開を迎えている。そのためにどれだけの手間と費用がかけられたのか。  中には、この日のために山奥から掘り出され運ばれてきた木もあると聞く。そんなこと、ここに集まるセレブや有名人にとっては、たいした問題ではないのだろうけれど。  生演奏をBGMに高価な酒と料理を堪能しひとしきり桜を眺め感嘆した後、彼らの興味は、自分たちがこれまでに味わってきた「素晴らしい花見」語りに向いて行った。         *** 「世界一周の客船クルーズでのお花見は、忘れられませんわ。乗客の私たちのために、この国の港から樹齢120年もの桜の木が2本、積み込まれたの。8分咲きだった桜は徐々に開花して、数日でそれは素晴らしい満開を迎えて。その木の下で、皆でお花見をしたんです。海の上でお花見。そうそうできる体験じゃあないでしょう?」  嫣然と微笑んでマダムが言えば、 「それは素敵な体験でしたね。でも、まあ、私が体験したのとはちょっと趣が違いますな。私はね、桜の開花を追って南から北へ2ヵ月の間、グランピングしながら国中を移動したんです。桜を無理に開花させたり持って来たりなんてことはしないで、桜の自然なあるがままの生命力を堪能する。これこそが究極の贅沢と思いますね」  と、恰幅の良い腹を揺らしてさらに年かさの紳士が応える。  それを聞いて、新進気鋭の若手実業家が口を開いた。 「いずれも素晴らしい体験ですね。でもまあ、こう言っては何ですが、これは誰でも、金を出せば味わえるものではありますね。私が体験した最も贅沢な花見はですね、某国の王室の皆さんとご一緒してのものでした。え? ええ、ちょっとしたつてがあったので。  こればっかりは、金ではどうにもなりません。真の贅沢とは、そういうものではないかと、僕は思いますね—」         ***  次々と続く、さまざまな花見の話、自分語り。私はただ聞いている、笑顔を顔に張り付けたまま。内容はほぼひとつ、と内心思いながら。  つまりは、自分がどれだけ金と手間をかける(=他人にかけさせる)ことができる立場にあるか、自分の立場がどれだけ立派かということを、彼らは異口同音に語っているということだ。  そして思う。  私にとっての世界で一番贅沢な花見、それは、金額とは無縁のものであったと。
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