1. みじめなお花見と、『花見』

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 都内有数の広さを誇る公園の、ほぼ中央に位置する原っぱ。雲ひとつない青空がお似合いな緑の絨毯は、東京ドーム二個分も収まる広さがあるらしい。  それをぐるりと囲む満開の桜並木は、レジャーシートの上で楽しげに話し乾杯する人たちの笑顔を薄ピンクの花びらで彩っていた。  香ばしいソースの匂いが屋台の存在を知らせてくれるけど、今は食欲がわかない。 (だめだなぁ、私。せっかく唯花(ゆいか)がお花見に誘ってくれて、芽衣(めい)春奈(はるな)にも久しぶりに会えたのに)  中学校で同じクラスだった三人の友達。高校はそれぞれ違ったから、長期休みのたびに集まって遊んでた。  それぞれ受験に専念して、一年ぶりに会えたのに。  嬉しいはずなのに息苦しくて、テキトーな言い訳をしてレジャーシートを抜け出し、桜並木を歩く人の列に混じった。  別に、誰も悪くない。  私が美大受験に失敗して浪人生になっただけ。  ほかの三人は、もうすぐ大学生になるだけ。  それだけ。  ――だから、みじめ。  今日の陽気みたいにあたたかくて眩しい場所に進む三人と、長いトンネルにまたもぐる自分。  自分のせいだと分かっているけど、言い訳したく無いけど……受験生をもう一度するって、考えるだけでしんどい。 (あの時は一緒に迷ったのにな)    そうして思い出に浸り始めた私の、下げた視線の端にまぶしい黄色がちらついた。  立ち止まり顔を上げると、教室くらいの広さがある、菜の花畑が広がっていた。
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