1. みじめなお花見と、『花見』

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 菜の花畑は遠目にしか見たことがなかったから、目の前一帯に咲いているとその迫力に圧倒されそうになる。  桜の花と空、原っぱの緑とも色合いの相性が良い。  それなのに、立ち止まる人の数よりも遊ぶように飛び回るモンシロチョウの方が多い。  みんなお花見が目的で上を向いてるからだろうか。 私も今ままで気づかなかったし――ううん、私の場合は下向いて歩いてただけか。 (こんなに綺麗に咲いてるのに、もったいないな)    スマホで何枚か撮って、肩から下げたミニショルダーからスケッチブックとペンを取り出した。  スケッチブックは一辺10センチくらいの正方形で、ページの角が丸くなっている。小さなサイズ感と形が可愛いくて、出先のスキマ時間に気になったものを描けるのが気に入っていた。 (……そういえば、久しぶりに開いたな)  ページをめくれば、不合格だと分かった前日に描いた分でおしまいだった。  また気分が沈みそうになって、何度も頭を振る。  それまで歩いていた歩道から菜の花畑の奥につながる小道を進み、ほかに人がいない草の上に腰を下ろして、描こうと構えた時だった。  菜の花の根元に人形が立ってるなあと思ったら、それが私に振り向いた。 「な、え? 小人?」 「挨拶もなしに失礼ね」 「喋った!」
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