2. ナノの依頼

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 一族を背負って出場する人の大事な一枚を描くなんて。  責任重大じゃないか。荷が重すぎる。  そんな私の弱気を察したのか、ナノの視線が鋭くなった。 「ここまで聞いたからには描いてくれるのよね? 姿絵」 「えっと……姿絵ってどうして必要なの?」 「花見の日まで会場に飾られるのよ。姿絵の出来も結果に左右されるから、腕のいい画家は優勝候補者にとられちゃうの」 「な、なるほどぉ?」 「……歯切れが悪いわね」  ナノの眼光から逃れようとゆっくり顔を背けたら、こっちに近づく気配がした。小さな足からは信じられないくらい、草を踏みつける音が大きく聞こえる。 「きょ、協力してあげたいとは思うけど」 「けど?」 「私、画家じゃなくて見習い……のスタート地点にも立ててないし、今日は絵の具持ってないし」 「じゃあ、そこには何が描いてあるわけ?」  スケッチブックを指差され「絵です……」と答えるしかない。 「見せてよ」 「え」 「早く!」 「はいぃ」  目力に負けてスケッチブックのページをめくる。  気になった風景や周りにいた人を短時間で描いたものが多いから、完成度は低い。  何だこんなもんかと諦めてくれないかなと思いながらページを進めると、ある場所でナノのストップがかかった。 「……すごくいい」  黒一色で描いた、私の自画像だった。
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