3. 描かせてほしい

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「……ねえ、本当に描いてくれないの?」  ナノの手が私の手に触れる。氷みたいにひんやりしていた。  花の精は体温が低いのかもしれない。それとも、日当たりがいい場所に行けたら、あたたまるんだろうか。 「あたしが優勝したら、姿絵は勝者の間にずっと飾られるわよ。咲茉(えま)が見にくることはできないけど、あたしの国ではすごい栄誉よ」 「……私は自信がないだけなの」  不合格だった私の絵が、通用すると思えない。自信がない。せめて半年、ううん数ヶ月後の自分だったら、もう少しマシな絵が描けるだろうから、そしたら了承したかもしれない。  うなだれた私に喝を入れるみたいに、ナノは拳にした両手で私の手を叩いた。   「あたしは、描いてくれるまで待つわ。花見で優勝するためなら、何だってするって決めたんだもの」  視線の強さがずっと変わらない。言い訳ばかりして後ろ向きな私とは大違いだ。   「ナノは強いね」 「強くなんかないわ。単にチャンスが一度しかないってだけよ。だったら全力で挑むしかないじゃない!」 「一度……?」  花見っていうから、毎年あるものだと思ってた。違うんだろうか。  大きく息を吐いてから、ナノはポツリとつぶやいた。 「だって、あたしは一年草だもの」 「一年草?」 「花が咲いて枯れたら終わり。優勝候補の花族はみんな木とか多年草だから、何年もかけて準備できるし挑戦もできるわ。でもあたしはそうじゃないから。少しくらい協力してくれたって、いいじゃない……」  ただでさえ小さかった声が、風にのって飛んでいきそうなくらい細くなっていく。 (一年草? チャンスは一度って、それって……)
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