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包み隠さずにいうと僕はこの幹正先輩という男を見下していた。彼は僕よりも人間として、生物として、下のカテゴリーの人間なのだとわりかし本気で思っていた。ただ一応言っておきたいのは見下しているのは僕だけじゃなく、僕の所属するサークルの人間全員がたぶん幹正先輩のことをほんのり見下していて、その空気は僕がサークルに入ったときには既に醸成されていたものだったということだ。つまり幹正先輩は見下されるべき存在として最初から僕の前に現れたのだ。まあだからと言って僕が幹正先輩を見下していいという理由にはまったくもってならないのだけれど、一応言っておきたかった。
なぜ見下されているのか、という話をすると長くなってしまう。というかそんなもの幹正先輩を見下している人間それぞれに理由があるだろう。もっと言ってしまえば何も「見下していい理由」などというものはないのだが。
まあ一つ僕目線で具体的なエピソードを語っておくと、初めての新歓コンパでベロベロに酔っぱらった幹正先輩がトイレから出てきてズルズルとトイレットペーパーのしっぽを引きずって現れたあの瞬間。それも他の先輩たちが「ああ、またか」という表情をしながら部屋の隅にゆっくりと沈んでいく幹正先輩を誰も介抱しないのを見て「ああ、この人は皆に見下されるような存在なんだな」と思ったわけである。「だから見下したのである」ではなく、「察するに見下される人間であるから、見下したのである」だった。ちなみにそのあと「二次会行くぞ!」と一人叫ぶ幹正先輩を巻いて他のメンバーで二次会に行った。
きっとみんなそれぞれに幹正先輩を見下す具体的な理由があるだろう。繰り返し言っておくが、本当のことを言ってしまえばそれが「見下していい理由」にはまったくもってならないのだが。でも、まあ…そういうもんである。とにかく僕は彼のことを見下しているのだ。
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