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「おせーよ」
言われた時間より少し遅れて集合場所に到着するとすでに先輩が仏頂面で立っていた。
これからお花見なんていう年間通しても最もご気楽なイベントに行くとは思えない顔である。
「お前、なめてんだろ、俺のこと。先輩だぞ?」
と言われたので
「ええ、まあ、なめてますね…」
と本音で返事をすると、
「へっ、生意気いいやがって」
となぜかちょっと嬉しそうな声で返事をし、僕の胸元にドクターペッパーの缶を投げつけてきた。
どうやら僕の言葉を「仲がいい先輩後輩故にできる小粋なやりとり」だと解釈したらしい。困ったなあ、本当に見下しているのに。
「だいたいこの時間から花見なんてできるんですか。ここ、都内のど真ん中だし、場所取り必至みたいなイメージありますけど」
人の流れに押されながら問いかけると先輩が
「安心しろ。何年か前に来て、穴場を知ってるから」
とニヤリと笑った。ブサイクな笑顔だな、と思った。
案の定もう場所なんてなかった。日本でもっとも人気の花見スポットである。昼過ぎから行って空いている場所などあるはずがない。先輩の言う「穴場スポット」とやらがどこを指しているのかすらわからないほど人でごった返していた。
「やっぱダメじゃないですか」
「…もう一つ知ってるから」
「はい?」
「もう一つ、穴場知ってるから」
とちょっと不機嫌になって歩き出す。
「もう一つ」とやらもすでにいっぱいだった。先輩はさらに続けて「ガチの」、「次が本命」などと言いながら楽し気に酒盛りをしている人たちの間を歩いていき、僕はその後ろをとぼとぼとついていった。
僕と幹正先輩はかなりの歩数を歩いていた。存在しない絶景お花見穴場ポイントを求めて。幹正先輩自身もそんなポイント存在しないことを認めざるをえない時間が経過していた。もうあきらめて家に帰りましょう。かわいそうなんで、マックくらいおごりますよ。
そんな風に先輩に声をかけようとしていたタイミングで、突然幹正先輩とは別の声が僕に話しかけてきた。
「あれ? お前うちのサークルのやつだよな」
「え?」
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