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無言の再会
清海は連絡を受け二人を迎えに出る。老夫婦はゆっくりと登って来る。
「お義父さん、お義母さん」
清海は深々と頭を下げた。照雄と佐重子。博之の両親である。
「わざわざお越し頂き申し訳ありません。この度は私がしっかりしてないばかりに……」
清海は言葉を詰まらせた。照雄はかぶりを振った。
「いいんだよ、清海さん。こればかりはどうにもならん」
佐重子は無言だった。仲が悪い訳ではない。逆に清海は二人に良くやっていた。だから二人とも清海に対しては好感を持っていた。ただ佐重子は言葉を見つけられずにいただけだった。
「お義母さん。ゆっくりで大丈夫ですよ」
清海は佐重子の手を取り同じ歩幅でゆっくり歩いた。この坂は二人には肉体的にも辛いはずだった。玄関までなんとか辿り着き重苦しい雰囲気の家に上がりこむ。もう何年ぶりだろう。この家に来るのは。身体の自由が思い通りにならなくなってからはほとんど自宅を出ることがなかったからだ。
廊下をゆっくり進む。居間があり、襖が取り除かれ奥には立派な白木祭壇が出来上がっていた。目の前には白い布を被せられた亡骸が横たわっていた。佐重子も照雄も言葉にならず肩が震えていた。こんな姿で会うとは夢にも思わなかった二人である。
目の前に鎮座する二人。照雄がゆっくり白い布を持ち上げる。目を閉じたままの存在があり、二度と目を開けることはない。話しかけても言葉を返すこともない。安らかに眠る博之がそこにいた。
二人の目から決壊した涙が一気に溢れた。
悲痛な叫び声が部屋中に響き渡った。
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