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きっかけというもの
──今年の四月──
「新しいクラスか」
和希は教室に入り自分の席を探した。『松尾和希』と名前が書いてある。席に着いた。皆ソワソワしている。真新しい顔を見る度にに緊張度が増す。誰かと仲良くなれるだろうか。そんなことを考えていた。
「よろしくな」
隣から声が掛かった。
「えっ?」
和希はいきなりの声掛けにびっくりした。
「あっ、こちらこそ。よろしく」
「俺、拓斗。同じ中学の奴等は別のクラスでさっ。昼休みには集まろうと思ってるけどさ。それまで何をしたらいいか考えてまずは隣の奴に話しかけようって。親友になる運命かもな」
面白い奴だなと和希は思った。
「俺は和希。いや、新しいクラスに馴染めるかどうか不安だったけど」
拓斗は頭を掻いて顔を真っ赤にした。
「これだって俺も奥手だから勇気出したんだぜ。これが高校デビューってやつ?」
嘘だろこいつと和希は笑い返した。
「内気な奴が自分から高校デビュー? って言ってこないよ。変だなお前」
二人して笑いあった。それから授業が始まるまでお互い自己紹介のように話していた。
「なあ、部活何か決めてる?」
「俺は中学からバレー部だったからそのままバレー部かな」
「そうなんだ。もし良かったら弓道部に誘おうかと思ったんだけど」
残念そうに和希は俯いた。
「弓道とかやってたの?」
「いや、珍しそうだったから」
拓斗は笑った。
「なんだよ、それ」
「新しいことやりたくて」
和希は徐々に積極的に話していた。
「いいんじゃない。新しいことやるって大切だからさ」
ドアが開き担任らしき人物が入ってきた。緊張が拓斗のおかげでほぐれていた。この時は拓斗が大きな不安を抱えているとは思わなかった。明るく振る舞い笑う拓斗にこいつなら親友になれるかもと感じていた。それからいつも拓斗は和希に話しかけていた。この出会いがきっかけでいつからか気がねなしで話すようになっていた。昼休みには良くつるむようになったし、何かあれば相談もした。時に影を落とす拓斗が気にはしていたがそのことはあまり触れずにいた。
今思えばあいつはずっと父親のことを気にしていたんだな。昔を思い出しながら、そんなあいつを俺はどう支えたらいい? 和希は一日中考えていた。
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