引越しから始まる恋

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渡辺未華。大学生になりました。 入学式が始まる前に地方から東京に引っ越ししてきたんだけど、幸いなことにここの物件は家具が一式ついている。冷蔵庫や電子レンジ、テーブルやベッドとかあらゆる家具があったので自分で用意するものは服や洗面用具、ハンガーが少しと……ダンボール数個だったので、知人のおじさんに頼んで軽トラックで運んで貰い、小規模な引っ越しで終わった。 それが今日の話。今は夕方である。 またダンボールがその辺に置いてあったけど、明日からでいっか!と軽くため息をついた時だった。 インターホンが鳴る。 おじさんが何か忘れ物をしたのかと、インターホンのカメラを見ると、男性が立っていた。 「…はい」 恐る恐るインターホンで話してみると、「あっ!ここの部屋に前に住んでた者です。松原って言います。部屋のタンスの1番下に、白い服が入ってないですか? ぜひ、探して頂けると、ありがたいんですが…」 なに?新手の何かの勧誘? と疑ったが、「ちょっとお待ちください」と言って、タンスの引き出しを開けてみる。 すると、確かに白い服が入っていた。 それを持ち、ドアを開ける。 長身の。 その人を見上げるとイケメン。 黒い髪、整った眉に、切れ長の目、高くて筋の通った鼻。 程よい厚さの唇。 「これ、ですか?」 「そうです!これです!本当にありがとうございます。妹からプレゼントされた物で大切にしてたものなんです。最後にカバンにしまおうと思って、うっかり忘れてしまって……本当に助かりました。ありがとうございます!」 彼は大きな声で何度も頭を下げた。その度に、黒髪がバサバサ揺れる。 「大丈夫ですよ、あって良かったです」 「では、これで……」 にこやかに丁寧に頭を下げて帰っていく彼に、あんなかっこいい人いるんだ!見れてラッキー!と私は内心喜んでいたが「しまった!すっぴん!」と玄関先で落ち込んだ。 *** さて、次の日。良い天気だ。 ダンボール片付けていかないと。 ガムテープを開け、自分の好きなように片付けていく。 そろそろ、休憩でコーヒーでも飲もうかなと思った時だった。 またインターホンが鳴る。 カメラを覗くと、昨日の彼。 どうしたんだろ、また忘れ物? 私はドアを開けると、「何度も来てすみません、松原です。昨日はご迷惑をおかけしました。 あの、これ、駅前のなんですが、美味しいクッキーです。良かったら食べてください」と袋を私に突き出した。 「あ、あのこんな頂けません。大した事してないし」 「いや、女性の部屋に突然押しかけて、驚いたと思います。何のお礼もしないなんて、ちょっと失礼かと思って。是非貰ってください」 「いや、あの……えっと、分かりました。ありがとうございます。」 私は突き出された袋を貰うと、再び彼は頭をものすごく下げた。 「ありがとうございますっ!」 「え!あ!えっと逆にありがとうございます、わざわざここまで来ていただいて、反対に申し訳ないです」 「いえっ!僕が忘れ物なんかしなければ、ご迷惑にならなかったのに…本当にすみません」 顔を上げた彼は長いまつ毛を伏せて、ゆるゆると瞳を動かす。 「いいんですよ、気になさらず。では、これで」 「ホントに、ありがとうございます!」 その大きな声を聞きながら、私は笑顔で、ドアを閉じた。 いやだ、ホント陽の光の中みる彼は、マジで自分好みだ。 2日連続見れるなんて、ホントラッキー。 誠実そうな人で良かった。 でも、変な人には気をつけないとね…… *** それから、入学式。 入学式が終わると、まるで花道のようにクラブや、同好会などの入部勧誘で、すごい人だった。 今のところ、入りたいクラブなんて決めてない。 あははと愛想笑いで、なんとか人をまいていくが、いちいち足止めをくらう。 「あの!もしかして」 聞いた事がある声で、私は振り向いた。 後ろにいたのは、あの彼だった。 「松原さん?」 「名前覚えててくれたんですね、ここの新入生ですか?」 まさかの出会い。 縁がありすぎる!内心ドキドキしているのを止められない。 「そうなんです。でも、今のところ何も入る事決めてなくて」 「そうなんですね、僕、ここの2回生。えっと…渡辺さんの先輩になりますね」 「なんで私の名前知ってるんですか?」 私が首を少し傾げると、彼は両手の手のひらを私に向けてブンブンとふり、少々慌てた様子だった。 「表札に書いてあったから、知っただけで!あの、調べた訳じゃないですよ!」 「だ、大丈夫なので、落ち着いてください」 「あ!ごめんなさい!俺の方が年上なのに、なんか慌てちゃって、ホント、ごめんなさい」 私はクスクス笑う。 それを見て、彼は耳まで真っ赤にして、頭をぽりぽりと掻いた。 「松原さんは、私の先輩ですから、敬語使わなくていいですよ、それにそんなに何度も謝らなくても…」 「ありがとう。じゃあ、今から、お言葉に甘えて普通に話させてもらいます。それにしても、渡辺さんがまさかここの大学とは。驚きだ」 松原さんは、私の好きな顔を、フニャリとさせ笑った。可愛い。 「松原さんはどこのクラブなんですか?」 「俺?俺は怖い話同好会っていう、数人のグループだよ。でも、怖い話ばっかりはしてなくて、単に集まって楽しい話で盛り上がってるグループ」 「怖い話かぁ、私苦手だから、無理だなぁ」 彼はアハハと笑った。 「でも、9割遊びで1割活動、くらいだよ。もし良かったら顔見せに来てくれたら嬉しいな」 私は苦笑いする。 「えぇ…でも、怖いのは…」 「そっか!じゃ、気になったらまた声かけてね」 あー、でも、この顔はずっと見てたいくらいー。 松原さんは、私に手を振り、どこかへ行ってしまった。 でも、松原さんはイケメンだし、優しいし。 きっと彼女いるだろうな。 早めに諦めた方がよさそ。 私はクラブ勧誘をなんとか退けつつ、自分のマンションへ戻った。 部屋の片付けもまだ残ってるし。 *** ある日の天気の良いお昼。 自分で作ったお弁当を大学のベンチに座って食べていた。 すごく気持ちがいい。 早速出来た友達は、大学の外の喫茶店にランチに行ってしまったけど、あとから合流する予定。 私は、ゆっくりとお昼を食べていると、横から声がした。 「あれ?渡辺さん?」 見上げると、久々の松原さん。 「松原さん、お久しぶりです」 「お弁当作ってきたの?いいな!横座っていい?」 「あ、いいですよ、どうぞ」 松原さんはまるで大型犬のようだ。 私が「OK」を出すと、大きな尻尾ふりふり座ってくるように見える。 「松原さんはもうお昼食べたんですか?」 「あー、うん。でも、渡辺さんがここで食べてるって知ってたら、俺もここにパン持ってきたのに!」 と、笑っている。 ダメダメ、お愛想で言ってるだけよ。 ときめいちゃダメだよ、未華。 「渡辺さん、もし、良かったらなんだけど……」 彼はちょっと言いにくそうに、自分の指と指を絡ませた。 「連絡先交換してもらえないかなぁ?」 うはぁっ!ダメダメーーッ!恋愛度数上がっちゃう! 「LIFEで良ければ…」 冷静を装いながら、私は連絡先を交換する。 普通なフリして顔の熱が上がってる私、カッコ悪い。 「渡辺さんて、未華っていうんだ。かわい」 「そそそんな、普通によくある名前ですよ」 イケメンの言葉は何を言っても、正義だ。 私の名前が可愛いなんて。 だからそれでもテンションあがっちゃうんだってば。 「あんまり、そんな事言ってると、彼女さんに怒られますよ」 私がそう言うと、彼は横に首を振った。 「いや、彼女いない歴11ヶ月。フラれちゃったから」 なんで、こんな優しそうな人をフッたのか聞いてもいいんだろうか? 「……松原さん、こんな優しいのに何で…」 「んー…もっと好きな人ができたらしー」
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