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美帆×彩花
「…絶対、秘密にしてほしいんだけど…」
彩花から会いたいと連絡をもらったのは、都筑と飲んだ翌日のこと。
都筑を介さないで連絡してくるなんて…初めてのことだ。
「親友の美帆だ」
そう言って都筑に紹介されたのは4年前。
3人で飲みに行ったり同棲するアパートに招かれたりして、彩花と連絡先は交換していた。
でも2人きりでよくお酒を飲みにいく私のこと、彼女はよく思っていないんじゃないかと、こちらから連絡することはなかった。
「…美帆さんって、洋平とは本当に何もないの?」
私の名前が美帆だってこと、覚えてたんだ。
そう思うほど、話すのは久しぶりだった。
「何も…って?」
「…だから、体の関係とか…そこまでいかなくてもキスとか」
私は彩花にはわからないくらいの笑みを浮かべた。
「そんなこと聞くなんて…彩花ちゃんって都筑のこと、相当好きなんだね!」
そう言うと彩花は、急に真っ赤になって下を向く。
「…うん。でも、洋平って私にはいつもイライラして怖いから…もう少し優しくしてくれたらなって思ってて…」
意外と女友達には優しいのかなって思った…と、彩花は赤い顔のまま続けた。
「あ、でも私がこんなことを美帆さんに聞きに来たこと、洋平には絶対、内緒にしてほしいの」
わかった…と言いながら、視線が泳ぐ私を、彩花は見逃さなかった。
「…言って。何かあるなら、ハッキリ」
覚悟したような顔に、私はふぅ…と小さくため息をついた。
「それじゃ…本当のこと言う。実は都筑には、毎回会うたびに関係を迫られていて…それが本当は辛いんだ」
彩花は赤かった顔色を一瞬で失って、私につかみかかってきた。
「…抱かれたの?」
「必死で断ってるから…まだそんなには。でも…昨日はちょっと、拒みきれなくて…」
昨日だなんて…小さな声で呟いて、彩花は急に力が抜けたように座り込んだ。
それを見て…思わず明るくなってしまう声に注意しながら言った。
「…あいつさぁ、罪滅ぼしのつもりなのか、いつもすごく高い店に連れていくの。ホテルも安いラブホじゃないし…これも、プレゼントされて」
私は手にしていた高級バッグを彩花の前に突き出した。
「これ…洋平が、美帆さんに買ってくれたの?」
そうだよ…と言った私の声を聞いて、綺麗な顔が歪むのがわかる。
「私にはプレゼントなんてしてくれないのに…」
…小さく呟いた声が聞こえた。
「でも、結婚は彩花ちゃんとする気じゃない?…そしたらきっと、私もあいつから解放されるから…」
彩花はどこを見ているかわからない目で私を見た。
「…私が洋平とのことをバラしたこと、あいつには絶対秘密にしてね」
彩花の視線をしっかりとらえ、私はそう伝えた。
「…わかった」
彼女はヨロヨロ立ち上がって、何も見えていないような目つきのまま、店を出ていった
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