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「都筑とは高校の時からの親友なんです」
その親友は死んだというのに…嬉しそうに笑う顔。
「私…2人から別々に『絶対に秘密にして』って、ナイショ話を打ち明けられてたんです」
山根美帆がクスッと笑ったので、逆にこちらは神妙な様子で尋ねる。
「…現場にいた佐伯彩花は、被害者に自分以外の女がいたことが許せない…と供述してましてね…もしかして、それがあなた?」
美帆はうーん…と考えて、パッと目線をあげて言う。
「2人との約束はもう…なかったことにする。
…だって都筑は殺されちゃったし、彩花ちゃんもおかしくなって、しかも逮捕されてるしね…!」
笑顔を崩さない山根美帆に、一瞬背筋が寒くなった。
…これは、俺の苦手なタイプの事件かもしれない。
「都筑は、本当はすごく彩花ちゃんを愛してるのに、暴力ばっかり振るう男だったんです。
でも彩花ちゃんはそんな都筑でも、すごく好きだったみたい」
目の前に出されたお茶を、無表情で見つめながら、山根美帆は続けた。
「私と都筑はよく2人で飲みに行ってたから、実は何度か誘ったんですよね。高校の時から都筑のことが好きだったし。でもあいつ、1度も手を出してこなかった。それなのに、惚気るんですよ。彩花ちゃんのことをいかに愛しているかって」
…横恋慕か。
それにしても男を愛していた彩花が、どうしてあんなに半狂乱になったのか…。
男は浮気をしていなかったわけだし、指輪をもらってプロポーズされて、幸せだったんじゃないのか…?
「都筑は、自分がどれほど彩花ちゃんに惚れてるか、バレるのを嫌がってました。彩花ちゃんも、ほんとは2人きりで飲みに行く私に嫉妬してたのに、それを都筑に言えなかったみたい。だから私は、それを利用したの」
美帆はニヤッと笑って、続けた。
「相思相愛なのに…秘密にするってなに?
何だか、バカらしくなったんですよね。だから私も内緒にしてほしいって言って、嘘をでっち上げてやりました」
「それは…どんな嘘?」
「都筑が何度も私を求めてきて、大切にしてくれてるって嘘。
本当は指一本触れてこなかったけど…。
そしたらショックを受けちゃったみたい。
自分は殴られてばかりなのに…って。
でもそれが、都筑の愛し方だったのに、あの女いつまでも理解しないから。
だから私も、話したことは都筑に秘密にしてほしいって言ったんです」
彼女は笑って、ペロッと赤い舌を出した。
「そう頼めば断れないでしょ?自分も私に秘密を守ってもらうんだから」
そして続けて…
「秘密なんて、破っちゃえば良かったのに。そんなに都筑のことが好きなら」
この女性は彩花がこんな事件をおこすのを、実は期待していたのではあるまいか…。
もしかしたら、暴力的な方法でしか人を愛せない都筑を愛してしまった自分のことも、恐ろしく思っていたのかもしれない。
打ち明けられた2人からの秘密を、友人なら拗れないようにそっと教えてあげれば、こんな事件にはならなかったはずなんだが。
「だって…2人とも絶対に秘密だよって…言うんだもの」
…なかなか厄介なものだ。
秘密、というものは。
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