5人が本棚に入れています
本棚に追加
ひっこしてはいけない。
これは、今から数年前のこと。
オカルト系には興味があったし、ここみたいな怖い掲示板とかも出入りしていたから、そういった話はたくさん知っていたつもりだった。それこそ、事故物件なんてものは使い古されてるくらい、昔からよくあるネタだって。
でも、さすがにこのパターンはまったく予想していなかったんだ。だからみんなにも、注意喚起もかねて書き込んでみることにする。
僕はこの通り怖い話が大好きな人間で、ホラー映画もよく見る方だ。オバケが怖くないわけじゃない。むしろ、怖いもの見たさというのが大きい。
オバケが本当にこの世界にいるかどうかはわからないけど、自分に害がないならそんなのは映画だろうとアニメだろうとドラマだろうと一緒なのだ。怖いからこそ、ドキドキハラハラのスリルが楽しめる――なんというか、ファンタジーを面白がる感覚に近かったかもしれない。
そんな風に思えたのも、僕自身が零感に近かったからだ。
例えば高校時代、友達数人と一緒にプチ旅行をした時。おふざけ半分で某自殺の名所に行ったことがある。なお、友人たちは特に霊感持ちとかそういうものでもない。そこは、よく崖から人が飛び降りてしまうことで有名なスポットだった。多分、駅からほどほどに遠くて虚無感にかられるような環境とか、人気がなくて柵も低いので飛び降りやすいとか、そういう理由だったんだろう。
とはいえ。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!海きれえええええええええええええええええええ!ひゃっほおおおおおおおおおおおおおお!』
高校生の僕は、そんなことより崖の上から見える真っ青な海と、青々とした雄大な森に圧倒されていたわけだが。
自殺に名所なんて言われているけれど、吹き渡る風も爽やかだし、景色もいいし、最高の穴場スポットではないかと。
ところが。
『い、いや、ここで写真はちょっと』
『え、なんで?みんなで撮ろーよ』
『い、いいから。な、数馬』
『そ、そうそう数馬。そろそろ別のところ行ってみようぜ』
『えーまだ来たばっかりなのに。弁当は?ベンチあるけど』
『他にも公園あったし、そっちで食べればいいってば!』
その時、僕と一緒に来ていた友人は四人。その四人が、四人とも“すぐにここから離れよう”“写真撮るのはやめよう”と言いだしたのである。
僕は不思議に思ったものの、実質多数決に押し切られる形でみんなと一緒にその場を離れることになったのだった。
で、お昼ごはんを食べている時に友人の一人から聞いたのである。
『あそこ、なんか変な声してたんだって……マジ、数馬気づいてなかったのか?何人もの男とか女の声でさ、下を見ろ、下を見ろ、下を見ろ……って言ってんの。あれ、下見たら多分やばかったやつ。なんでお前だけ聞こえてねえんだよ……』
その声は、僕にだけ聞こえていなかった。
まあそんなことがあったくらいだ。僕は、どうやら己が零感らしいことと――本当にオバケはいるのかも?くらいには思うようになったわけである。
最初のコメントを投稿しよう!