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そんな僕が、大学生に上がる年のことだ。
東京の大学に合格した僕は、春から念願の一人暮らしを開始することとなった。
東京の土地は高い。賃貸だって、家賃がまったく馬鹿にならない。家探しは結構長い期間に及び、卒業した春休みをたっぷり使うまでかかってしまうことになったのだった。
「一応、いくつか候補は見つけたんだけどさあ」
ちなみに、僕には兄貴が一人いる。社会人として、先に東京で一人暮らしを始めていた彼だ。
最初は兄と同じアパートを借りようかと思ったのだが、部屋があいていなかったので断念したという経緯がある。田舎暮らしが長い僕と比べたら断然都会に染まっているし、東京の住宅事情にも詳しい。
自宅から兄貴の住んでいるアパートまでは電車で一時間半あれば行ける。
その日も僕は兄貴のアパートに上がり込んで、住む場所の相談をしていたのだった。
「いい物件って、ソッコーで埋まっちゃうし。そんでもって、家賃と便利さがどうしても両立しないというか」
「そりゃしょうがない。駅チカのところほど高い。そもそも、大きな駅の周辺に賃貸アパートなんて立てるか?普通に分譲マンションとかにするだろ」
「ですよねー……」
「駅から徒歩ニ十分くらいは我慢するべきだって。あと、駅からの距離と大学の距離ばっか気にしてるみたいだけど、コンビニとかスーパーとか、そういうのもちゃんと気にしておけよ?あと、一人暮らしだと家電量販店には意外とお世話になるからな」
「あー……」
二人でタブレットで物件を見ていたその時だった。
唐突に、兄の顔色が変わったのである。とある賃貸マンションのデータを表示した時だった。
「どうしたん、兄貴?」
「あ、いや……」
彼は明らかに口ごもっている。僕は横からタブレットを覗き込んで、思わず声を上げていた。
「●●駅から十分で……家賃たった二万!?え、え、破格どころじゃなくね!?すっげ、良物件!」
なんと、そこは大きな駅からたった十分だった。勿論、東京二十三区の中の、それも大学からたった二駅しか離れていない大きな駅の近くでだ。
写真を見た限り、アパートの外観も極端に古いなんてことはない。築八年だから、むしろ新しい方と言えるだろう。それで二万円。ありえないほど安い。
「いや……安すぎるだろ」
兄は眉をひそめていた。
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