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勇者パーティは理想郷を作りたい!
「俺は思う」
ある日、勇者パーティのリーダー(剣士)が言い出した。傾いた丸テーブルに両肘をつき、穴だらけの畳にあぐらをかいてのゲンドウポーズである。
「最近、仕事にも日常生活にも張り合いがないと思わないか」
「どうしたのリーダー、急に」
僕は眉をひそめて尋ねる。なお、僕は白魔導士。みんなを回復する後方支援役だ。
「張り合いがないのも仕方ないと思わない?だってもう魔王は倒しちゃったんだから。僕等がやる仕事なんて、魔王の置き土産のモンスターたちの残党倒すか、森で薬草やキノコを採ってくるか、パチンコ店の駐車場の草むしりくらいでしょ」
「ああそうだ、魔王を倒した時点で勇者の仕事が激減するのは仕方ないこと!でもな白魔導士よ、その三つの仕事の中で俺達の仕事の割合、草むしりがややっっっったら多いのはなんでだ!?なんでうちのパーティにはモンスター討伐とか、こう、花のある仕事が全然来ねえ!?」
「そりゃ……勇者は勇者でも、ランクが低いからだと思いますけど?」
そんな文句言ってもどうしようもないではないか。
だって僕達は、勇者パーティの中でも下っ端なのだ。魔王を討伐したメンバーの一人ってことにはなっているが、実際は他のパーティがボコボコにして目を回した魔王を、僕がおまけで杖でぼこっと殴ってトドメを刺しただけなのだから。――正直、僕が殴るまでもなく終わっていた気がしないでもない。だって僕白魔導士だし。攻撃力ないし。
そうなったのも、リーダーその他が魔王城に出発する当日に遅刻したからだが。
ちなみに僕達パーティはまとめて、この勇者アパートに住んでいる。築五十年のぼろっぼろの賃貸だ。だってお金ないし。
「まあ、魔王討伐なんて花のある仕事は、基本的にみーんなレベルの高い勇者とかに行くわよねえ」
ふう、とネイルを塗りながら言う赤魔導士。なお三十歳女性である。
「とはいえ、今更転職するのもきっついしねえ。だって、あたし達って……勇者業以外にスキルなくない?」
「ねえな」
「ないね」
「まあそうですね。私も召喚魔法ぶっぱなすしかできません」
杖を振りながら言うのは二十五歳の召喚士。綺麗な顔して一番えげつない性格と有名な男である。ぶっぱなすとか言ってる時点でお察しである。
「うわあああああああああああんみんな、なんでそんな諦めモードなんだ!俺は嫌だぞ一生パチンコ屋の駐車場の草むしりやって暮らすのは!うるおいがない!花がない!面白味もない!夏は暑くて冬は寒い!しかも給料安い!でもって帰ってきたらこのボロアパートなんだぞ、テンション上がらねえだろうが!」
ぐおおおおおおおお、とリーダーがむさくるしい涙を流しながら吠える。僕は嫌な予感がして尋ねた。じゃあどうするつもりなんですか、と。
すると彼は。
「俺達が暮らす、この部屋をリフォームする!俺達が毎日テンション上がるような部屋に変えるんだ!」
「え、でも……」
「例えば、壁をとっぱらってでっかい窓を作るとか!」
「ここ賃貸……」
「もふもふのでっかいわんこを飼うとか!」
「ペット禁止物件……」
「大人のエロいビデオを大量購入して毎日のお楽しみを作るとか!」
「このアパートの壁薄いんですけど?」
「壁紙を全部ピンクにしてラメ入りにして、ついでキラキラの魔法少女衣装を購入し、毎日コスプレを楽しむとかあああ!」
「あんたそんな趣味あったの!?ていうか人の話聞けよ!!」
あんまりだ。赤魔導士と召喚士は、もう呆れ果ててツッコミもしてくれない。
僕は頭を抱えた。こうなったリーダーを止めるのは至難の業であったから。そして。
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