第九章 語りかける筆跡

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「あぁ、明日は会社かぁ」  ベッドに潜って、健人は浮かない声を吐いた。 「気が重いな。由宇くん、代わりに出てくれないか?」 「何をバカなこと、言ってるんですか」  僕は楽しみですよ、と由宇は身を乗り出して、隣に横たわる健人に圧し掛かった。 「完璧なセレブファッションで、吉井 美咲を驚かせて、悔しがらせるんです!」 「うん。そうだね……」  健人は、由宇が語って聞かせた、美咲への復讐計画を思い返した。 『健人さんはまず、お金持ちになりましょう』 『人間は普通、お金があれば幸せだ、と思いますよね』 『お金持ちな健人さんの姿を、吉井 美咲に見せつけるんです』  まだ実感はわかないが、自分は確かに由宇の働きで、富豪になった。  しかし、と健人は首を捻った。 「お金持ちになったから私は幸せ、という感じじゃないんだ」 「えっ?」 「由宇くんが、私の隣にいてくれる。これだけで、もう何も要らないんだよ」 「あの、その……。そ、そんな無欲なことでは、ダメですよ!」  寝室は暗いので、由宇の顔は良く見えないが、きっと照れて赤くなっているのだろう。 「おやすみのキスをしても、いいかい?」 「……はい」  二人は手探りで、互いを求めて抱き合った。  唇を合わせ、心も合わせ、素敵な夢を見るために眠りの国へと旅立った。  体調不良のため、10日ほど休載させていただきます。  なにとぞご容赦ください。<(_ _)>
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