第九章 語りかける筆跡

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『この子を選んでくれて、ありがとう。  名前は、由宇(ゆう)といいます。  どうか、幸せにしてあげてください』  健人に宛てた、心温まる手紙。 (そして私は、由宇くんを託された……)  健人の胸に、疑問が湧いてきた。  こんなにハイスペックなアンドロイドを、なぜ安価で他人に譲ったんだ?  送り主の文字は、どうして由宇くんの筆跡と同じなんだ?  思わず健人は、由宇に訊ねた。 「由宇くん。私のところに来る前の、ユーザーさんの記憶って、ある?」 「えっ……。はい、まぁ……」 「初期化、されなかったってこと?」 「ん……」  急に元気を失ってしまった由宇に、健人は焦った。 「ごめん、ごめん! 変なこと、訊いて!」  無理に話さなくていいから、となだめる健人に、由宇は真剣な目を向けた。 「健人さん。今はまだ、話す時ではありません。でも……」 「ぅん?」 「いずれ、聞いてもらえますか? 僕を……造ってくれた人のこと」 「うん、解った。そのうち、ね」  穏やかに返事をした健人だったが、胸の内にはさざ波が立っていた。 (由宇くんには、何か隠された秘密があるみたいだ)  ただ今は、優しい笑顔で彼を安心させるしかなかった。
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