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『この子を選んでくれて、ありがとう。
名前は、由宇(ゆう)といいます。
どうか、幸せにしてあげてください』
健人に宛てた、心温まる手紙。
(そして私は、由宇くんを託された……)
健人の胸に、疑問が湧いてきた。
こんなにハイスペックなアンドロイドを、なぜ安価で他人に譲ったんだ?
送り主の文字は、どうして由宇くんの筆跡と同じなんだ?
思わず健人は、由宇に訊ねた。
「由宇くん。私のところに来る前の、ユーザーさんの記憶って、ある?」
「えっ……。はい、まぁ……」
「初期化、されなかったってこと?」
「ん……」
急に元気を失ってしまった由宇に、健人は焦った。
「ごめん、ごめん! 変なこと、訊いて!」
無理に話さなくていいから、となだめる健人に、由宇は真剣な目を向けた。
「健人さん。今はまだ、話す時ではありません。でも……」
「ぅん?」
「いずれ、聞いてもらえますか? 僕を……造ってくれた人のこと」
「うん、解った。そのうち、ね」
穏やかに返事をした健人だったが、胸の内にはさざ波が立っていた。
(由宇くんには、何か隠された秘密があるみたいだ)
ただ今は、優しい笑顔で彼を安心させるしかなかった。
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