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「ずいぶんと大変だったようだね」
「あ、はい。でもなんとか大まかな事情は解ってくれたみたいです」
「そう。でも一度俺が直接事務所に挨拶に行った方がいいね」
「いえ、久遠寺さんがわざわざ出向くほどのことでは──」
「こら、また間違えている」
「あっ、ごめんなさい! ……でもそんなにすぐには慣れなくて……」
「ふぅん。じゃあこうしようか。苗字で呼ぶ毎にキス一回」
「え!」
「ん? これってお仕置きじゃなくてご褒美になるのかな」
「そ、そそそ……それ、は……」
「早く慣れなさい、梨々香」
「!」
(ひゃぁぁぁー! 久遠寺さんは名前呼びにとっとと慣れている!)
カァと熱を持った顔を押さえながらつい数時間前の出来事を反芻する。
『どうにかなってしまいそうついでにもっとどうにかなってみない?』
その言葉に続く告白に私は衝撃のあまり固まってしまった。
『結婚しよう』
『……え』
『俺は君を手放したくない。此処で夫婦として一緒に暮らそう』
『……』
『愛しているんだ、君を。ネット越しで恋して来た君をいざ目の前にしたら理性や常識なんて概念が吹き飛ぶくらいに欲しくて堪らなくなった』
『く……久遠寺、さん』
『君はどう? 俺のこと、結婚する程に愛していない?』
『そ、そんなこと……私、だって──』
『結婚したい?』
『……した……した……』
『……』
『結婚、した……し、した……』
『──やっぱり引きこもりの根暗草食系アラサーおじさんとは結婚出来ないか』
『! したい、したいです!』
『本当?』
『ほ、本当です!』
『嫌々じゃない?』
『じゃない、です。ただ、少しだけ展開の早さに戸惑っただけで……』
『じゃあいいんだね? 俺と結婚してくれるんだね』
『はい!』
『よしっ!』
『……』
(……あれ? 久遠寺智里ってこんな性格だったっけ…??)
目の前のこの人は久遠寺智里で間違いなくて、実際に接してみるとある程度想像していたイメージ通りの人だったけれど、それ以外にも知らない面が沢山あることに戸惑いながらもそれらを知ることが出来た喜びに嬉しがっていた。
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