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「作曲していると時間を忘れてしまってそのまま此処で寝てしまうことが度々あってね。だったらいっそのこと仕事場と寝室を一緒にしようと思って」
「そう、なんですか」
ピアノとベッドという組み合わせが妙に甘美な連想をもたらした。微かに早くなった動悸を気にしている間にベッドに押し倒され、そのまま私に跨った久遠寺さんから頬を優しく撫でられた。
「梨々香……可愛い俺の梨々香」
「!」
久遠寺さんの長くてしなやかな指先が頬から唇、そして首筋から鎖骨へと流れる様になぞった。
(ピアノを弾くあの指が私の体を……)
そんな甘い触覚が全身を粟立てた。
「君は……初めて?」
「え」
「セックス」
ストレートな質問に胸がドキンと痛いくらいに疼いた。
「君の体を俺以外の男が抱いた?」
「あ、あの……」
「教えて」
「……」
瞳の奥底までを見透かすような鋭利な視線に見つめられ嘘をつくことが出来なかった。
「梨々香」
「……こ……高校生の時……少しだけ付き合った人がいて……」
「……」
「その人、と……」
「したんだ」
「……」
声に出して肯定することが出来ず小さくコクンと頷いた。
「そうなんだ」
短く呟かれたその言葉は温度が感じられない、とても冷たい響きに聞こえた。
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