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「ふぅん」
「な、なんですか、そのニヤけ顔」
「だって俺のこと、こんな風に想ってくれているんだって知ったらニヤけますよ、奥さん」
「!」
『奥さん』という呼び方がまだ慣れなくていちいち顔が赤くなってしまう。
「でもとりあえず、そろそろ俺の相手をしてくれませんかね」
「あっ」
座っていた椅子からそのままお姫様抱っこされてベッドに移動させられた。柔らかく押し倒されたベッドは船室の中にあるというのに広くて上質なものだった。
「……あの」
「ん?」
「あまり私にお金を使わないでくださいね」
「は?」
甘い空気には不似合いな私の言葉に久遠寺さんは呆気に取られた顔をした。
「新婚旅行と称してこんな豪華なプレミアムクルーズだなんて贅沢過ぎませんか?」
「全然贅沢じゃないよ。一生に一度のことだよ? ここでお金を掛けなかったらいつどこで掛けるというの」
「だって……」
「君は若い癖にしっかり者だね。大丈夫、君が思う贅沢は俺にとっては全然贅沢じゃないから」
「……」
「金銭面の心配はしなくていい。今まで貯まる一方で使い道のなかった金を有効活用しているだけだから」
「……それでも私はあなたと一緒にいられるなら近所の動物園に行ったって幸せなんですから」
「……」
「それこそ家の中にずっと閉じ込められていても幸せ……かも」
「……梨々香、君は本当に俺を喜ばせるのが上手い」
「え? あっ」
甘い時間の始まりを告げる首筋へのキスにふるっと体を震わせた。
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