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Side メイ
ここはとある神津一高の男子バスケ部の部室。
「あの、さ。私と付き合ってちょうだい!」
思わず口走った頂戴という語尾は流石にナイだろうとすぐに思い返したけれども、口から飛び立っていった言葉を留めるのなんて土台無理で、それは投げたボールが放物線を描くようにバスケのボールを磨く亮平に到達してその顔を呆れるように歪めさせた。
ぐう、屈辱だ。なんで亮平にこんなことを。そんなことを思っていたら、亮平の顔が唐突に引き攣った。目力いれすぎたかもしれない。
「何なの! 返事は!」
もう何がなんだかわからないくらいテンパってる、のだけわかる。多分顔は真っ赤だ。とっととここから逃げ出したいけど、一世一代の告白だ。
「や、や、芽以、ちょっと落ち着いて、まじで。いろんな意味でまじで」
なのに肝心の亮平はアワアワと手を謎のムーブに動かしている。
「落ち着いてるから、返事は!」
さらに詰め寄った私の腕が突然亮平と反対方向に引っ張られ、部室から遠ざかった。振り向けば、親友の貴乃だった。更に振り返れば亮平のポカンとした顔が更に遠ざかる。貴乃の力はとても強い。
「ちょっと貴乃、なんで邪魔するわけ?」
「そりゃあんたが馬鹿みたいな所業に及んでるからだよ」
「なによ馬鹿って。貴乃だって応援するって言ったじゃん!」
「ああ、言ったよ。言ったとも。だけどあれを見て」
そうして貴乃が勢いよく指さしたのは、カレンダーだった。
「カレンダーがどうしたの……ってああ!」
その瞬間、私は失敗を悟った。今日は4月1日だ。貴乃は呆れたようにため息をついた。
「で、なんで今日コクったの。よりにもよって」
「……すっかり忘れてた」
貴乃のため息は更に深まる。何で今日ってそれは単純な話で、昨日まで家族と名古屋に旅行に行っていたからだ。それでお土産を渡すついでに……ついでに告白を? するのもおかしいような。結局だいぶんテンパってたことは確か。
「ねえ貴乃、えっと、この場合、ノーカン?」
「いや知らないし。つかあんただってこんな日にOKされても困るでしょうが」
エイプリールフールに告白して、OKもらったらそれが嘘だったとか有りうるわけ? それはどう考えてもひどすぎる。
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